金正恩氏と抑止力に関して言えば、同氏が衝動的で残忍であり、たとえ家族であっても、自身に異議を唱えるおそれがある人物を躊躇なく殺害する一面を持ち合わせていることは明らかだ。私が知るかぎりでは、金氏は一握りの人間にしか耳を傾けていない。ただ私は、同氏をクレージーだとか、戦略的に理解に苦しむ人物とは思わない。確かに彼は、元NBA選手のデニス・ロッドマン氏を唯一の米国人の友人と見なしたり、変な髪型をしたりと変わったところはある。
だが、彼は決定的なリスクを冒すようなことはしていない。北朝鮮政府は自分たちがうまく言い逃れができると思うことを、用意周到に計算して行っている。北海道上空を通過した最近の弾道ミサイル実験のように、確かにリスクを冒していると思われる行動もある。これが深刻な事態に発展する可能性はあった。しかし、北朝鮮政府は米国がこれを実験と見なして対処しないだろう、と計算ずくのうえで実験を行ったのだ。
北朝鮮政府は利口で、機略に優れている
弾道ミサイルの実験をするうえで、北朝鮮には厳しい地理的な制限がある。通常の軌道で実験ミサイルを発射するところがすべて他国の領土上空になるからだ。北海道上空を飛行したミサイルの発射実験の前まで行われていた、ミサイルをより高い領域まで発射するロフテッド軌道にすることによって、同政府が非常に利口で、機略に優れていることがわかった。
この軌道で得られる実験結果は、通常とは異なるが、ここから多くのことを学んだはずだ。そして、この実験は、果てしないリスクを伴うものにはなっていない。つまり、当初言っていた、グアム島近海への発射より相当リスクは低かったのだ。
もちろん今が、米国、日本、そして韓国にとって理想的な状況とは言いがたい。しかし、現在のところこの状況を我慢しているということは、仮に予防的軍事行動の現実的な選択肢があったとしても、それはあまりに限られているということを如実に表している。
――つまり、考えられているような予防的な軍事行動は不可能だと。それでは、もし北朝鮮が軍事攻撃を始めようとしていると判断した場合、米国が先制攻撃をする可能性はありますか。
数十年間、米国は朝鮮半島においては、仮に北朝鮮が朝鮮戦争を再開させた場合、その攻撃を阻止し、韓国を守ることを念頭に基本的な計画を立ててきた。
が、ここへきて問題を複雑にしているのは、北朝鮮がサイバー戦争を視野に入れたような能力を備えようとしていることだ。こうした能力が大戦争に発展することはないが、放っておくと、米国が日本や韓国にかかわるうえでの信頼関係にヒビが入る危険性が生じる。米韓同盟や日米同盟を弱体化させることは、長い間北朝鮮が目指しているものだ。これは米政府と、北朝鮮政府が行わなければならない違うリスク計算だ。
より「伝統的」な先制攻撃の場合、米軍はダムから核施設まであらゆるものを攻撃しなければならないだろう。米国の先制的軍事行動は、北朝鮮による全面的な報復攻撃を想定したものになる。ここで重要になるのは、米国の情報分析の確度だろう。イラクに関する米国の情報分析は不十分な点が多かったが、北朝鮮はそれよりはるかに分析するのが難しい国だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら