コンピュータがこの10年で迎える限界の正体 AIは賢いが任せすぎると大事故も起こりうる

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――どういう選択肢があるのですか?

ひとつは、量子コンピュータです。技術的にはすばらしくて、量子シミュレーション(複雑な量子の現象をモデル化してシミュレーションすること)に使うだけでもすごく有用。なので、確かにやるべきです。ただ、量子コンピュータが今のコンピュータに代わるぐらい汎用化する、なんて言う人がいますが、それは技術が分かっていないなあ、と私は思ってしまう。なぜなら量子シミュレーション以外の用途が、まだ確立されていないから。

松岡 聡(まつおか さとし)/1986年東京大学理学部情報科学科卒業、93年東大大学院で理学博士取得。2001年から現職。2002年ごろから研究開発が始まったスーパーコンピュータ「TSUBAME」でプロジェクトリーダーを務めた。スパコンのノーベル賞と呼ばれるゴードン・ベル賞を2011年に受賞しており、日本を代表するコンピュータ科学者。(撮影:今井 康一)

じゃあ量子コンピュータ以外に何があるかというと、ひとつの例がニューロモーフィック・コンピュータ、脳型コンピュータと呼ばれるものです。

ちょっと遠いところから説明しましょう。今まで物理というのは、還元主義でやってきました。ある事象を要素に細分化し、その要素がどう作用しているかでその事象を理解しようという考え方です。その一方で、還元主義ではなくて事象全体を観察することによって将来を予測しようという考え方があります。

こちらの考え方に立っているのが、現在のAIの中心である機械学習、もっと言うとディープラーニングです。観察して学習すれば、還元主義的なアプローチより計算量が大幅に減るかもしれないからです。データから演繹するということですね。脳型コンピュータというのは、こちらのアプローチに合ったハードウエアなのです。

――グーグルが作ったAI用の半導体・TPUはどう思いますか?

あれは作り方が非常に古風です。1980年代の技術を、教科書通りに作っています。僕ら研究者にとってはあんまり面白くない。ただ、特殊な半導体というのは用途を見つけられるかで成否が決まりますが、TPUはAI、機械学習という特殊でも大きなマーケットを見出している。

――特殊なカテゴリでも世界の需要を集めれば大きいマーケットだと。

そうですね。ものすごいマーケットがあるわけですね。

「クレイジーなこと」はなぜ実現できた?

――松岡先生は世界で初めて、GPGPUの本格運用を実現しました。

TSUBAME(東工大が運用するスーパーコンピュータ)に2008年ごろから、GPUを搭載しています。GPUをスパコンに使うのは今でこそ当たり前ですが、当時は、大規模なスパコン、しかも実用できるマシンにGPUを搭載するなんてクレイジーと言われていました。

――なぜそんなことができたのだと思いますか?

僕は当たり前のことしかやってないんですけど。物理法則やコンピュータの歴史を踏まえて、そこから得られる帰結の結論を考えれば、普通の人よりは5~10年先が見えます。それが専門家というものでしょう。

――でも、同じコンピュータの専門家が「クレイジーだ」と言ったことを実現したのですよ?

あっ、確かにそうですね。その違いはきっと、子供のころからずっと、かれこれ40年ぐらいコンピュータをやっていることじゃないですかね。

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