米国株の本格的下落が始まったかもしれない 警鐘は「相場の天井」で鳴ってはくれないもの

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縮小

これに加え9月は、29日金曜日までに議会が行わないと、米国国債がデフォルト(債務不履行)になる恐れが生じる。共和党も民主党も、決してデフォルトを望んでいるわけではなく、最終的には上限は引き上げられようが、引き上げ問題が政治的な「道具」になる(たとえば民主党側が、○○の件について同党の主張を共和党が飲まないと、上限引き上げに応じない、などと交渉の道具とする)展開は十分にありうる。

その場合、市場が「もしかすると上限が引き上げられないかもしれない」と過度の懸念を抱くこともあるだろう。

また、9月19日火曜日~20日水曜日は、FOMC(米連邦公開市場委員会)で、量的緩和の縮小(保有債券の再投資の縮小)が決定される可能性が高い。緩和縮小自体は穏やかなものなので、本来は全く懸念する必要はないはずだが、さまざまな要因で市場心理が悪化していると、FOMCの決定も「不安ネタ」にされてしまう恐れがある。

アーネスト・ヘミングウェイの小説「誰がために鐘は鳴る」のタイトルは、英国の詩人・司祭であった、ジョン・ダンの説教から来ている。その意味は、鐘(弔鐘)は、誰か別の人のために鳴っているのでもなく、あなたのために鳴っているのです、ということから来ている。米国市場を中心に鳴っている鐘は、誰のためでもなく、投資家のために鳴っているのだろう。

調整入りが早まったかもしれない

繰り返しになるが、当初は「9月のどこかまでは米国株価や米ドルはまだ上昇する余地がある(したがって日本株もまだ少し上昇する)が、9月途中から大きく下落に転じる」と見込んでいた。

ところが、前述のように、既に米国株価は「天井圏」を形成してしまい、下落基調入りしてしまった可能性が高まった。では直接の引き金になった可能性のあるイベントは何だろうか。やはり、先週の、トランプ大統領の白人至上主義者に対する弱腰の姿勢であろう。それ自体が政治的には極めて問題だったが、それだけでは市場はこれほどの波乱とはならなかっただろう。株式市場や為替市場は、「結局それで経済や企業収益はどうなるのか」が関心事だからだ。

むしろトランプ大統領の姿勢を受けて、多くの主力企業の経営者が離反し、大統領に対する実業界の助言機関が解散することとなった。こうしたことがより深刻だった。「経済界と大統領府の関係を損なった」、あるいは、「この調子であれば、ますます経済政策に期待はできない」、という観測が台頭した。次期連銀議長が有力視されている、ゲーリー・コーンNEC(米国国家経済会議)議長の辞任の噂も広がった(最終的には否定されたが)。こうして経済に悪影響が生じかねない、との観測が、市場を揺るがしたと言えよう。

この点については、当初の予測は「経済政策に対する本格的な失望は9月から」だったが、実際はすでに8月から始まった、と解釈できる。であれば、「すでに米国株や米ドルは天井を打ち下落軌道に入った」、と考えるべきで、日本株についての外部環境もこれから悪化していくことになる(繰り返しになるが、日本国内で悪材料が湧きあがっているわけではない)。

さて、今週に限っての日経平均株価の予想だが、前述のように、目先は株価がリバウンドすると予想している。ただし、24日木曜日~26日土曜日に、米ワイオミング州ジャクソンホールで開催されるシンポジウムで、ジャネット・イエレン連銀議長やゲストのマリオ・ドラギECB(欧州中央銀行)総裁が、どのような発言を行うのかを、様子見しようとの気分も広がり、株価の上値は重いだろう(イエレン議長の講演は、25日金曜日の予定)。したがって、今週の日経平均は、1万9300円前後~1万9700円で推移すると見込む。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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