歴史が語る米国に残された「軍事オプション」 過去に北朝鮮と衝突したときはどうしたのか

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「仮に北朝鮮が報復するとしたら、米軍と韓国軍にとっての主な直接的脅威は、北朝鮮の残りの航空戦力組成によって引き起こされるだろう。したがって軍事的評価を行えば、北朝鮮の航空戦力全体を無力化するための十分な規模の攻撃が必要であるとわかるだろう」

奇襲の限定攻撃が北朝鮮の報復を誘発し、大きな紛争につながることはないかもしれないが、大規模な攻撃を仕掛けるほうが好ましい、と JCSは結論付けていた。軍事オプションの攻撃範囲を追加することは、1969年にワシントン特別行動部会(WSAG)によて検討準備がされていた。WSAGはいまや、核兵器の使用を担当していた。

「大胆にやれ、さもなくば何もやるな」

限定攻撃か大規模攻撃か、という論争はその後も続いた。7月9日に国防長官に届いた覚書の中で、統合参謀本部議長、アール・ホイーラー将軍は、発電所と飛行場5カ所か6カ所とを組み合わせた限定攻撃が、大規模な戦争を引き起こす受け入れがたいリスクがあることを認めていた。

「米国のいかなる特定の反撃に対して、北朝鮮の反応を、自信を持って予測することは不可能だ」と同将軍は書いていた。「しかし、このプランのいかなる行使も、北朝鮮政府は、相当挑発的な行為であると考えるであろうことは明らかである」

これらの文書を利用できるようにした記録史料学者、ロバート・ワンプラー氏はこう話している。「大胆にやれ、さもなくば何もやるな、はキッシンジャー長官とニクソン大統領がこの事件から得た重要な教訓であるようだ」。この教訓は、その後の米政府に重くのしかかっている。その後の米政府は何度か、北朝鮮との似たような危機に直面してきた。

北朝鮮の核兵器開発を考えれば、報復リスクは一層高まっていると言える。核兵器使用の可能性に至るまで、圧倒的な軍事力を伴うオプションをトランプ大統領が繰り返し言及することは、1969年に策定された有事計画が少なくとも部分的には有効なままであることを物語っている。

これらの文書に書かれていてないことは、過去の大統領たちとは対照的に、トランプ大統領が実際の危機の瞬間に、何を決めるのか誰にも予想がつかないということだ。過去は警告と自制を書き残してくれるだけのように見えるだろうが、過去はまた、戦争のリスクが現実であり、外交の必要性が差し迫っていることも思い起こさせてくれているのだ。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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