26歳男性「正社員で年収200万は幸運」の真意 農業を目指したが「行政のミス」で挫折

✎ 1〜 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 21 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

国の福祉制度の利用も考えたが、生活保護はわずかながら貯金があるので使えない。第二のセーフティネットと言われる生活困窮者自立支援制度の住宅扶助も窓口で「一生に一度しか使えない制度」と説明され、断念。国による生活福祉資金貸付制度も返済時に利子が付くと聞いてやめた。

せめて健康保険料と住民税の免除を、と役所に相談したが、「そのような制度はありません」の一言で終わり。ダイスケさんの前年の所得に基づき、今年は20万円近い税金を収めなくてはならない。「生活保護以外のセーフティネットはないも同然」と痛感した、という。

若い夫婦にとって、唯一幸せなのは2人の絆に揺るぎがないことだ。ダイスケさんは「どんなときも否定的なことを言わない。いつも、“どうにかなるよ”と言ってくれます。妻には感謝しかありません」、一方の妻は「面接や職場でどんなに嫌なことがあっても、(夫のいる)家に帰ってくるとホッとします」という。仲のよい夫婦だが、子どもについては「欲しいけれど、今はとうてい無理」と口をそろえる。

ダイスケさんはガス販売会社を不本意な形でクビになり、「心身ともに疲れ果てました」とうなだれる。ここなら独立資金を貯めるための余裕が持てそうだと、期待した矢先のトラブルだっただけに、なかなか気持ちが切り替えられないのだという。

福祉関係の仕事に就きたいが…

今も、工場勤務や飲食店など選ばなければ仕事はある。一方で、今度、農業を再開するときには、障害を持っている人や虐待に遭った子どもたちに就農機会を提供する「農福連携」を目指したいと思っているという。特色のある農業のほうか、生き残りやすいとの期待があるからだ。このため、次の就職先は福祉関係を希望しているが、福祉業界は賃金水準が低すぎて、今度は独立のための資金集めという目的が果たせない。

「農業では採算が取れるまでに5年はかかります。もう一度、挑戦するのか、それともあきらめるのか。あきらめるなら、仕事は生活の糧を得るための手段と割り切って生きていくことになる。子どものことを考えると、決断までに残された時間はそう多くはないんです」

この秋には失業保険が切れる。「それまで、もう少しだけ考えさせてほしい」。

話を聞いている間、ダイスケさんは時々、手のひらを見つめ、指の付け根あたりを指先でなでるような仕草を見せた。触れさせてもらうと硬いマメができていた。

「毎日、クワを握っていましたから。本当はもっと硬くて、黄色いマメだったんです」

このマメが日ごとに柔らかくなっていく。そのことが悔しくて仕方ない、という。

本連載「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事