ルネサス、鶴岡工場閉鎖は本当に妥当なのか “消えかけた"独立案が再浮上

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エルピーダメモリと明暗が分かれてしまったという見方もある(撮影:梅谷 秀司)

独立といっても鶴岡工場やその従業員に資金があるわけではなく、複数の事業会社が出資した新会社が銀行などからの融資も受けて鶴岡工場を買い取る格好になる。これは、ルネサス側から見ると売却にほかならない。

ルネサスの冠が外れても、工場の生産が継続されれば雇用の一定は守られ、地元経済も大いに助かる。「鶴岡工場の従業員だけで約900人。その家族もいる。生産が継続され雇用が維持されることがベスト。譲渡でそれが可能ならば望ましい」。鶴岡市商工課の担当者は言う。

この国内大手メーカーはもちろん、既存の鶴岡工場の顧客にとっても大助かりなうえ、ルネサスにとっても実はメリットが大きい。鶴岡工場が独立してくれれば、ルネサスはリストラができる上に特別退職金や固定資産の除却損など膨大なリストラ費用を節約でき、それほど巨額ではなくとも売却収入も得られる。

また、ルネサスは鶴岡工場の製造装置の一部を那珂工場に移設するが、専門家によると移設には100億円単位のコストがかかる上に、移行期間や顧客からの再認証の手間などで時間的ロスも多い。

世界で唯一、混載DRAMを実用化

そもそも、赤字を垂れ流す鶴岡工場になぜ独立という話が持ち上がったのか。

鶴岡の技術力に対する評価は高い。ライバルだった日系半導体メーカーの元社長は「鶴岡工場が持つ技術が失われるのは日本の半導体産業の損失だ」と惜しむ。特に混載DRAMという、記憶回路であるDRAMとロジック回路というまったく製造工程が違う2つを1枚のウエハ上で実現できる技術を実用レベルとしているのは、世界でもルネサスだけだ。

混載DRAMを採用しているのは現状では任天堂だけ。混載DRAMは低消費電力に特徴があるが、システム全体のバランスの中で、わざわざ特殊技術を採用する必要がない。しかし、モバイルやデーターセンターなど低消費電力に対する要求が高まる中、その将来性を買う動きがあるわけだ。 

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