「安倍vs岸田」は禅譲か挑戦か、それが問題だ 保守本流のプリンスは、どのように動くのか
それもあってか、岸田氏は外相としてでしゃばることを控え、首相の「地球儀俯瞰外交」の"露払い役"に徹してきた。その間、ポスト安倍への決意を問われても、必ず「もし安倍さんの終わりが来れば…」との前提を付け、来年9月の次期自民党総裁選に首相が出馬すれば首相支持に回る意向を示してきた。4月の宏池会パーティでも、岸田氏の発言を受けて登壇した首相が「もうしばらく我慢して、安倍政権を支えていただきたい」と会場の笑いを誘うと、岸田氏が苦笑しながらうなずく場面もあった。
しかし、前通常国会会期末の「共謀罪」法成立をめぐる強引な手法について6月下旬には「政権は何をやったかではなく、どうやったかだ」と首相批判ともとれる発言をして周囲を驚かせた。さらに7月4日に岸田派が主催した政策シンポジウムでは「今の経済政策における格差といった負の側面に適切に対応することが重要だ」と指摘し、宏池会創設者の故池田勇人元首相の経済政策を引き合いに現在のアベノミクス政策の修正の必要性を強調。併せて政権運営についても「大事なのは忍耐とか謙虚さ」と指摘した。
首相が5月に提起した憲法9条での自衛隊明文化についても「今は9条改正は考えていない」と一線を画す姿勢を示しており、党内ではこうした一連の言動を「来年の総裁選出馬への布石」(細田派幹部)と見る向きも少なくない。
華麗な政治家一族だが「戦闘力不足」との声も
岸田氏の父親の故文武氏は通産省(現経済産業省)出身で、長く自民党経理局長を務めた「温厚篤実」な政治家だが1992年に入閣目前で死去した。跡を継いだ銀行マン出身の岸田氏も「真面目で誠実、党内にも敵がいない」ところは親子共通だ。故宮澤喜一元首相とも姻戚関係にあり、同じ広島が選挙区の宮澤洋一党税調会長(参院議員)は従兄弟という政治家一族の一員。宮沢家を中心とする「いとこ会」のメンバーは「子供の頃から従妹達の面倒を見る『優しい文雄ちゃん』だった」(1歳下の従妹)と証言する。
こうした岸田氏生来の「誠実さと優しさ」が党内での「いい人」評につながるが、永田町では「戦闘力不足」との批判も招く。さらに党内では「政治資金集めが不得意で、派閥若手への資金援助は派閥名誉会長の古賀誠元幹事長に頼っている」(岸田氏周辺)との指摘もある。
加えて外相として世界を飛び回ることを余儀なくされた結果、総裁選を意識しての地方回りはほとんどできていない。地方創生相として全国各地に足を伸ばして「地方の隅々まで知った」石破氏とは対照的だ。地元広島以外の地域では「岸田さんってどんな人?」との声が多く、「首相候補」としての知名度不足は否めない。
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