タカタ倒産劇で透けて見える「銀行側の事情」 変わるメインバンクと企業の距離感

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その背景には、いくつかの要因があると考えられる。

第一に、銀行の体制の変化がある。最近は、コーポレートガバナンスの厳格化で、銀行員が企業に天下りするようなウェットな人間関係は減少し、株式の持ち合いも大きく減っている。株主の企業統治への見方も厳しくなっているので、銀行も、経済合理性のない、問題の先送り的な救済はできない。また、かつては銀行自体の体力が脆弱だったため、損失の発生を先送りするために私的整理を行うケースも見られた。しかし、今ではドラスチックな処理を行う体力もある。

「再生」という名の「延命」は割に合わない

第二に、マイナス金利の影響がある。平均貸出金利が年3%を超えていた1990年代半ばなら、支援して延命させれば、金利収入で元本を回収できる可能性もある。たとえば、債権を3割放棄しても、4%の金利が取れれば、7年半で回収できる。ところが、今や平均貸出金利は1%程度である。債権を3割放棄してしまったら元本回収に30年かかる計算だ。まして、当局からは、事業性を丁寧に評価し、新規貸し出しを拡大するよう迫られる。時として新規融資の何倍もの時間がかかる企業再生は、割に合わない。

第三に、主に中小企業においてだが、信用保証協会案件の問題がある。一般に、銀行は公的機関である信用保証協会からの保証付きで貸し出しを行えば、企業が倒産しても貸出元本の毀損は2割で済む。ならば、あれこれと手間をかけて再生プランを練るよりも、企業が何とか金利だけ支払えるうちは金利をもらっておいて、いよいよとなったら信用保証協会に補てんしてもらうのが合理的とも考えられる。

このような問題を背景に、今年2月に信用保証制度の改革が行われた。銀行は、企業の再生を後押しすることで協会とリスクシェアを行うよう求められる。ただし、保証割合の引き下げが見送られるなど、抜本的な変革とはいえない。今後は、企業の経営改善に協力するよう銀行に促す方針だが、具体策はまだ見えない。

さらに、メインバンク以外の第三者から再生資金を得られるDIPファイナンス(事業再生支援融資)などの新たな貸し出しも行われるようになっている。米国では一般的な手法だが、かつて日本では主に政府系金融機関が行ってきた。まだ主役になるには程遠いが、最近では一部の民間金融機関も手掛けるようになるなど若干の広がりも見える。

銀行が安易に企業を破産に追いやるようでは、意欲的にリスクを取る企業は育たないだろう。しかし一方で、商品や技術が時代遅れになっているケースで延命させても、企業の新陳代謝を遅らせてしまう。銀行は、企業の経営が比較的良好な今のうちに、企業との関係をあらためて整理しておくべきかもしれない。

大槻 奈那 ピクテ・ジャパン シニア・フェロー、名古屋商科大学大学院 教授

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おおつき・なな / Nana Otsuki

東京大学文学部卒業。邦銀勤務の後、ロンドン・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。格付け会社スタンダード&プアーズ、UBS証券、メリルリンチ日本証券にてアナリスト業務に従事。2016年1月よりマネックス証券 執行役員。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授、二松学舎大学客員教授を兼務。共著で、『S&P 日本の金融業界』シリーズ(東洋経済新報社)、『リテール金融のイノベーション』(金融財政事情研究会)、『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)など。ロンドン証券取引所 アドバイザリーグループ・メンバー。政府委員を歴任。

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