東京都バスは、なぜ56年も営業赤字なのか 東電は弟分?知られざる都バスの正体<上>

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設備投資も抑制し、一時期は2000台以上保有していた車両も、現在は1400台規模で推移。新車を投入する代わりに、既存車両を修理して耐用年数を延ばしている。さらに、廃止した営業所や車両工場の跡地を駐車場やテナントビル用地として民間に貸し出すことで、本業以外での収入確保を進めている。

こうした取り組みもあって、赤字額は年々縮小する傾向にある。交通局が2016年2月に策定した経営計画では、東電株の配当金に頼らずに、2023年度に営業・経常利益ともに黒字化する見通しを掲げている。

営業黒字化に欠かせないのが、不採算路線の見直しだ。昨年10月に交通局が公表した資料によると、2015年度時点で全127路線(臨時便や区からの受託路線を除く)のうち、7割以上の93路線が赤字だ。臨海部での収入が増えてはいても、青梅地域を走る路線や長距離路線が足を引っ張っている格好だ。

だが、都バスの担当者は「赤字という理由で廃止する予定はない」(交通局自動車部の島崎健一事業改善担当課長)と説明する。

都バスはあくまで公共交通機関であり、目先の収支よりも公共交通としての使命を果たすことにほうが重要だという。「たとえ路線の7割が赤字でも、3割の黒字でどうやって都民の移動手段を確保していくかが重要だ」(交通局総務部の渡貫貴浩企画調整課長)。

さまざまな競合も台頭している

青梅車庫に至る路線はすべてが赤字だ(記者撮影)

足元の事業環境を見ると、都民の公共交通を担うのは、都バスばかりではなくなってきている。

東京都都市整備局が2015年に設置した「利用者の視点に立った東京の交通戦略推進会議」の資料では、将来の地域交通の担い手として自転車や1人用自動車、コミュニティバスが挙げられている中、乗合バスの存在感は乏しい。

公共交通に詳しい横浜国立大学の中村文彦副学長は、「鉄道やコミュニティバスを含めた各交通手段が、誰をどうやって乗せるのかを議論すべきだ」と語る。仮に公共の足の確保が都バスの目的ならば、「都の主張する公共とは何か、現状の赤字収支を是認してでも守るべき価値があるのか」(同)についてのチェック体制が必要だと指摘する。

乗合バスのあり方を議論するには、「五輪を目前にした今がチャンス」(日本バス協会の船戸裕司常務理事)。都バスだけでなく、東京都の交通全体を巻き込んだ動きが期待される。

(後編は17日に配信予定です)

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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