「この世の終わり」を思わせるイギリスの日常 もはや「悪いニュース」しか出てこない

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労働党の党首、ジェレミー・コービンは、彼が6 月の選挙で党を破滅させるという世間一般の見方にあらがい、逆に、中流階級や若年層、高齢層に受けそうな純粋な大衆迎合主義のポジションをとることで労働党への票数を増やした。

数字のつじつまが合わないマニフェスト、あいまいすぎて位置づけが難しいブレグジットに対するポジション、「保守党員は昔からそうだが、相も変わらぬ反動主義のまぬけたちだ」という一貫した批判――。これらが労働党の優勢予想を支え、コービンのリーダーシップを強固なものにした。そしてそれらは、イギリス社会にさらなる後退をもたらした。

イギリスは現在、偉大な指導者がいるような国ではまったくない。メイ首相に取って代わる可能性が高い競争相手の中で唯一、財務相のフィリップ・ハモンドだけが、彼自身の政府をつくる前に、その任務の大きさと、それによりイギリスが負債を負うかもしれない深い溝を理解している。しかしハモンドは控えめなテクノクラートであり、政治的な戦いを望んでいるのかどうかまだはっきりさせていない。

再び「欧州の病人」になってしまうのか

イギリスは行き詰まっている。イギリスはEU加盟国27カ国とうまくやっていくことを願っている国の1つだが、そのEU加盟諸国はイギリスが拒絶したクラブから追い出すことを協議している。EUはイギリスの輸出の大部分を受け入れている単一市場だが、イギリスがその市場にアクセスすることを拒否するだろう。

しかし、もしイギリス政府がそのスタンスを軟化させ、ノルウェーのように単一市場に参加しつつもEUには加盟しない(それによりEU加盟国からの移民は受け入れる)という道をたどれば、ブレグジット推進派から強い反対に遭うだろう。そして、イギリスに対して友好的な大国は世界で唯一アメリカだけになるだろう。

そのアメリカを率いるドナルド・トランプ大統領の自由貿易への反感は、将来、自分ではどうしようもできないところまで、大統領自身の力を弱めてしまうかもしれない。

イギリスが「欧州の病人」というレッテルを張られていた1970 年代以降初めて、この国は深刻な一連の危機に直面している。そして、それを避けるためには偉大な政治的手腕が必要になるが、現時点では、そのような手腕を持った政治家も政党も、ないようだ。

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