シャープ堺工場への進出は非常に異質のモデル--米国コーニング社ディスプレイ テクノロジー プレジデント ジェームス・クラッピン氏

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--ソニーは昨年、有機ELテレビの販売に乗り出した。有機ELテレビの将来性については、どう見ているか


 現在、有機ELのメーカーはひと握り。この市場はまだ始まったばかり。ソニーが有機ELのテレビを発売したが、サイズはまだ小さいし、価格はとても高い。有機ELは、まだ揺籃期だ。多くの関係者が有機ELテレビに関心をもっており、有機ELテレビを本流にしようとして、様々な技術的課題の研究をしている。現在の有機ELの課題は、コストと大きさ、さらに有機EL素材そのものの寿命だ。こうした問題が解決されれば、5年後であれ8年後であれ、いつか将来のある時点で、有機ELテレビは液晶テレビにとってライバルになるだろう。
 コーニングは実際に、有機ELが直面している課題のいくつかをサポートするための技術を開発しており、研究中でもある。寿命の問題については、有機EL素材を湿気と酸素から守る必要がある。コーニングは、有機EL素材が空気または湿気の影響を受けないようにする「Vita(ヴィータ)」と呼ぶ封止技術を持っている。また、高い熱安定性が特徴の「Jade(ジェード)」という名の新しいガラスを開発した。「Jade」も、ソリューションの一環として有機ELテレビの商品化に役立つだろう。
 ただ、液晶テレビが現状の技術水準のまま、ということにはならない。液晶の技術は向上し続け、コストは下がり続けている。多くの人は有機ELテレビが液晶テレビを上回るものと考えている。画像品質の良さで有機ELは商品化され、価格もいずれ下がることになるが、同じように液晶テレビの品質も向上し、そのコストは下がり続ける。たとえ有機ELが技術的課題を巧みに解決したとしても、今後4、5年間は、有機EL市場が大幅に成長することにはならない、というのがコーニングの予測だ。


--顧客である液晶メーカーのシャープ堺工場に最新鋭のガラス工場を建設する理由は


 コーニングは、シャープと長年にわたり良好な関係を築き、第6世代(1800×1500ミリメートルのガラス基板)、第8世代(2460×2160ミリメートルのガラス基板)など数多くの次世代基板を共に開発してきた。シャープは、これらの世代では一番手となった。シャープから相談を受け、第10世代についての話し合いをしたのは、自然の成り行きだった。コーニングは慎重に、この取り組みについて調査し、シャープの計画に理解を深めた。最終的に、シャープとコーニングは堺工場でも良好なビジネス関係を築き、第10世代に向かって動き出すことに合意した。


--シャープの敷地内に製造施設を建設することで、制約はないか


 シャープとコーニングは製造施設を建設するということで合意し、シャープのニーズがあるから建設するのだから、制約はない。シャープとコーニングは、この新しいビジネスモデルを、いかに確立するかについて時間をかけて話し合い、両社のニーズを満たすことで最終的に合意した。
 このビジネスモデルは、非常に異質のモデルだ。コーニングは、シャープの工場に隣接する形で施設を構え、第10世代の液晶用ガラスはコーニングの工場から、直接シャープの工場へ送り込まれる。


--シャープには台湾や韓国などに競合他社がひしめいている。シャープがコーニングに対して第10世代よりも大きな、第12、13世代の製造を依頼したら、コーニングは対応するか


 重要なことだが、コーニングは最終市場を把握するためにとても時間をかけ、常に目を光らせている。パネルメーカーの計画がどうであれ、コーニングが工場を建設することを決める際は、新工場の生産能力が最終市場の状況に対するコーニング自身の見解に沿ったものであることを確認している。最終市場に第12、13、または14世代の需要があると信じる限りは、顧客であるシャープやその他企業と共に開発していくことになると思う。より大型のガラス基板を製造するにあたって、技術的にはなんら障害はないと考えている。


--現在、コーニングの市場シェアは50%を超えている。競合他社が3社あるが、現在の優位性をどう維持していくのか


 トップシェアを、あたりまえとは思ってはいない。コーニングは顧客の信用・信頼を維持するために、新しいテクノロジー、サービス、製品改善、機能改造などの面で懸命に努力してる。今の状況にあぐらをかいているわけではない。ここは、生き馬の目を抜くような業界だ。以前から手ごわい競争相手が何社もある。彼らは、業界を熟知している。市場で現在の地位を維持するには、彼らの上をいくしかない。


--今後、ディスプレーの素材がガラスから樹脂のような異なる素材ベースのテクノロジーに取って代わられる、または追い越されるという可能性は


 コーニングは長い間、ディスプレー業界の状況を見てきて、今も見続けている。結論は、ガラスは非常に優秀な素材である、ということだ。高温下でも安定しているし、ほとんどの環境で堅牢だ。また樹脂やプラスチックに比べて、安価だ。ガラスは非常に薄く仕上げられるので、重量もあまり問題にならない。ガラスは、曲げられるまで、薄くできる。例えば光ファイバーはガラスだ。現在まで、液晶パネルメーカーの厳しい仕様を満たすことのできる樹脂は存在しない。しかし、これからもチェックは怠らない。コーニングは常に、業界の情勢に目を光らせている。
(聞き手 鶴見昌憲 =東洋経済オンライン)

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