日本でも「スマホで納税」する日は来るのか 年末調整の煩わしさは省力化するしかない

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このようにエストニアでは、納税手続きだけでなく、行政サービスなどが電子化されていて、政府は国民に利便性を高めるサービスを提供している。他方、それだけ政府は、国民や企業に関する情報をたくさん収集しているということでもある。

スウェーデンや韓国も電子化が進んでいる国だ。政府が得た情報を民間の利便性向上に活用するようなサービスを政府が行っている。ただ、韓国はエストニアと似て、比較的多くの情報を政府が収集できるようになっているのに比べ、スウェーデンは必要な時に政府が情報収集できる体制を整えているが、常時リアルタイムで情報を収集しているわけではない。

米国とそれに似たカナダは、電子化の進捗ではエストニアなどより遅れているが、税務当局に情報が集まるよう、民間に情報の報告を義務付けている。それでいて、当局が集めた情報について、当局側から民間の利便性向上に資する取り組みを積極的に行っているわけではないし、情報を収集するものの、民間に還元するというわけではない。その象徴として米国では、個人の納税者は所得税を確定申告しなければならないが、手続きの負担を軽減するようなサービスを税務当局が施すことはない。むしろ、民間の確定申告ビジネス(申告書作成ソフト開発会社、申告代行業、会計事務所など)が発達していて、納税者はそれを活用している。

フランスとイギリスも電子化を進めており、政府はほどほどに情報を収集し、ほどほどに民間の利便性向上に資するサービスを提供してはいるが、エストニアなどのように国民や企業の情報を網羅的に収集することはない。ただ、その代わり、国民や企業に還元できるものも限られている。

日本の税務当局は「あらぬ誤解を招きたくない」?

翻って、わが国はどうか。エストニアから始まる海外調査報告の含意をうがってみると、まるで政府は日本でもエストニアのように国民や企業の情報を包括的に収集し、「テロ等準備罪」と併せて”監視社会”を築こうとしているのか……。

そんなことはない。日本の税務当局は、消費税率の10%への引き上げすらままならないのに、電子化の名の下に国民や企業の情報を包括的に収集できるシステムを作ることに対し、ポリティカル・キャピタルを費やせるような余裕がまったくない。むしろ、テロ等準備罪の新設を含む改正組織犯罪処罰法が成立した直後だけに、あらぬ誤解を招きたくないから、納税の電子化や省力化を率先して行いたいとは思っていないぐらいだろう。

だから日本の場合、政府税調における海外調査報告の順番では、さすがに近い将来にエストニアの水準まで行くのは難しい。イギリスやフランスのように、国民合意の下で、政府がほどほどに情報を収集することを許してもらうが、納税者の利便性向上もおのずと限界があってほどほどにしかできない、と言いたげな順番なのである。イギリスとフランスで海外調査報告を締めくくったというのは意味深長なのだ。

とはいえ電子納税の推進は、当連載の拙稿「裕福な高齢者までが介護保険をもらえる理由」でも述べたように、規制改革推進会議の第1次答申で目標が定められたわけだから、税務当局も怠るわけにはいかない。法人税と消費税の電子納税の推進は今後加速するだろう。

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