トヨタ株主総会、章男社長が涙を見せたワケ 株主の心配は短期業績よりも中長期の競争力

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「IT企業を凌駕する技術革新を生み出すべき」との指摘も株主から出た。
これに対して、豊田社長は「新しいことを見出すためにはイノベーションが必要だ。ただイノベーションはある日突然起こるものではない。まずイミテーション、真似すること。次にインプルーブメント。カイゼンを積み重ねてもっと良くすること。そのうえでイノベーションが生まれる。(豊田自動織機を創業した)豊田佐吉も(トヨタ自動車を創業した)豊田喜一郎も始めはイミテーションだった。謙虚に学んでカイゼンしていくしかない。新しいビジネスを生む挑戦を"攻め"というのであれば、トヨタのこれまでの80年間のビジネスは"守り"だったかもしれない。ただこれからを予測できない世界では、攻めも守りもできていなければならない」と語った。

涙ぐみながら閉会の挨拶

一方、ライバルとの協調も模索しているようだ。「未来は決して自分たちだけでは作れない。同志が必要なことも、すそ野が広い自動車産業で生き抜いてきたトヨタは深く理解しているつもりだ。ものごとを対立の軸で捉えるのではなく、新しい仲間を広く集め、情熱を持ち、未来を創造していきたい」と豊田社長。

コネクテッドカンパニーを率いる友山茂樹プレジデントも、株主に対して「トヨタとしては、異業種とある部分では競争して、ある部分では協調しないといけない」としたうえで、「トヨタは今後、単に数百万台の車を作っている会社ではなく、数百万台の接点を介してライフスタイルを提案する会社になっていく」と話した。

自動運転についての質問も出た。ここでも先進技術開発カンパニーの伊勢清貴プレジデントが"自前主義"ではダメとの考えを示した。「2015年秋に東京の首都高速でジャーナリスト向けに試乗会を行ったが、よいレベルにあるとの評価をもらった。そのときはトヨタグループの総力を上げたシステムで構築していた。ただその後に自動運転の競争がさらに激しくなり、自前主義ではダメと思い、特に自動運転で大事なAI(人工知能)開発を強化するため、ベンチャーと協業したり、半導体大手のエヌビディアと提携したり、シリコンバレーに拠点を作った。あらゆる手段を使ってでも自動運転の競争は絶対負けない」と力を込めた。

誰が味方で誰が敵か見えない将来。答えがない中で、もがくトヨタ経営陣と、エールは送っているが不安そうな株主の姿が明らかになった。今回の株主総会の開催時間は昨年とまったく同じ1時間53分だった。4つの議案はすべてすんなり了承された。

豊田社長は最後に「株主総会を1年で一番楽しみな日にしたいと申し上げてきた。本日はそれに一歩近づけたと思う。これからも持続的な成長に向けて努力していきたい」と挨拶。株主からの応援にも近い質問にこみあげるものがあったのか、涙ぐみながらの挨拶となった。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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