「地元には何もない」と言われる街に欠けた物 ドイツでは郷土博物館がこうも愛されている

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昔のことを知るだけでなく、ときに現代的なテーマに切り込む展示もある。たとえば昨今、ドイツでは外国にルーツを持つ人と、どのように社会統合をしていくかという議論が継続的に行われている。こういうテーマを地域のミュージアムで取り上げ、展示の一部は地元の学校と共同で作る。こうすることで、展示テーマが持つ価値は、より公共性の高いものになっていく。

異文化共生など、現代のテーマに切り込む展覧会も。オープニングセレモニーのあとはインターナショナルビュッフェが開かれた(エアランゲン市・市営ミュージアム)(筆者撮影)

こうしたドイツの様子を見ると、日本でもミュージアムは地方創生におおいに役に立ちそうだ。

それも、ハデな仕掛けによって集客し「稼ぐ」ことによるものではなく、文化財をきちんと保存し、それをしっかりと地域に発信していくことで、地域の地力を高めていくことによる地方創生だ。

「地元に何もない」と思うのは知る機会がないから

実際、日本のミュージアムで働く人たちの中にも、集客数を気にする以前の問題として、住民に向けてしっかりとした企画を立てるべきだと考える人はいる。

『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか』(学芸出版社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

朝鮮半島と九州の境目にある対馬市で「島おこし協働隊」としてミュージアム事業に携わる髙田あゆみさんはこう述べる。「『島には何もない』と言う人がいるが、それは知る機会がないだけ。実際は、大陸と交流してきた独自の歴史がある。博物館を造れば、島を知ることができる。博物館は観光のためというより、地元のため」。同市では、現在地域博物館を造る構想が動いているという。

地域を飛び出し、世界で活躍することを夢見る子どもたちは多い。ただ、自分の故郷のルーツも語れない人を、グローバルプレーヤーと呼ぶのはためらわれる。人材育成の観点からも、地域ミュージアムは非常に重要な役割を果たすことになる。

外から人を呼び込む観光資源としての、「稼げる」ミュージアムも大切だ。ただ、その役割がこれだけではないことは、つねに念頭に置いておかなくてはならない。

高松 平藏 ドイツ在住ジャーナリスト

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たかまつ へいぞう / Heizou Takamatsu

ドイツの地方都市エアランゲン市(バイエルン州)在住のジャーナリスト。同市および周辺地域で定点観測的な取材を行い、日独の生活習慣や社会システムの比較をベースに地域社会のビジョンをさぐるような視点で執筆している。著書に『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか―質を高めるメカニズム』(2016年)『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか―小さな街の輝くクオリティ』(2008年ともに学芸出版社)、『エコライフ―ドイツと日本どう違う』(2003年化学同人)がある。また大阪に拠点を置くNPO「recip(レシップ/地域文化に関する情報とプロジェクト)」の運営にも関わっているほか、日本の大学や自治体などで講演活動も行っている。

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