「地元には何もない」と言われる街に欠けた物 ドイツでは郷土博物館がこうも愛されている

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関連して、家族のつながりの密接さも影響してくる。日本より早く核家族化が進んだドイツだが、休日には祖父母の家を訪ねて食事をし、一緒に近辺を散歩する、という姿がよくみられる。その延長で「家族遠足」として、ミュージアムに向かうわけだ。

こうしたミュージアムは、大都市のみならず地方の小都市にも多い。ドイツの都市は、「経済活動の場」であると同時に、「文化的空間」でもある。特に近代に入ってからは、先述のエリート層が地方の都市社会をつくっていったため、「都市のなかに文化的施設はあって当然のもの」という認識が広くあったと思われる。その結果、人口規模がそれほど大きくない都市でもミュージアムや劇場など文化資源」が維持・蓄積されていったことは想像に難くない。また、都市においては美術館の建物などの建築物が、ハードインフラとして都市の象徴になり、市民の誇りとなる。

地方創生のためには郷土ミュージアムが必要だ

こと地方創生という文脈でミュージアムの役割を考えた場合、着目すべきは郷土ミュージアムだろう。

連邦の統計では、ミュージアムは「アートミュージアム(美術館)」「城ミュージアム」「自然史」「科学・技術」など9種類に分類される。中でも最も多いのが「郷土関係」で、4割以上を占める。こうしたミュージアムは、研究・教育・余暇を過ごす場であり、地域にしっかり根付いている。

学校の授業の一環で町の歴史を学ぶために訪れることもあるし、家族連れ向けのワークショップなどもよく開かれている。たとえばニュルンベルク市のコミュニケーションミュージアムでは、かつて使われていた郵便馬車に乗って近郊の農業地帯を走ることで、地域の歴史を学ぶことができる。これによって、地域住民たちは自分が住んでいる町の来歴と特徴を知ることができるのだ。

ニュルンベルクのミュージアムでは、郵便馬車に乗って地域の歴史を学べるコースがある(筆者撮影)

自治体の中で行われる文化的活動の中でも、郷土ミュージアムは重要な拠点となる。

たとえば、2013年はナイロン繊維が発明されて75周年を迎える年だった。化学工業で栄えたエルクナーという町の化学ミュージアムは、地元のホールで記念年のプログラムを開催したが、地域のダンススクールや郷土保護協会らと共同で行っているのがカギだ。ミュージアムの関連組織代表自ら、ナイロンの歴史や化学的見地を解説し、ナイロン製のストッキングを身に着けたスクールの女性たちが、往年のキャバレーさながらのラインダンスを披露。ミュージアムが他組織と一緒になって地域文化そのものを高めているのがわかる。

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