北河:あの勾配でかなり深くまで切っているということは、地盤がいい証拠ですね。本誌48ページでも、紅林章央さんが紹介していますが、聖橋(ひじりはし)もその地盤をうまく利用して架けられている。
皆川:つまり、関東ローム層に支持させている?
北河:聖橋のように下の主構造が踏ん張って、上に道が走るような橋を上路橋と言うんです。永代橋などは土地が低く、地盤も悪いので、道路が主構造の下にくる下路橋になる。
皆川:上路式のアーチ橋が成り立つ地耐力を、両岸が持っているなんて驚きです。
北河:切土ならではの構造物で、地盤が反映されます。
陣内:いまは御茶ノ水駅の改修工事で隠れてしまっていますが、聖橋は本当にダイナミックで、かつ美しい。
北河:あの曲線は変垂(へんすい)曲線なんですよ。力学的な合理性とデザインの美しさの両立を追求した、復興局の意気込みが感じられますね。
丸ノ内線で御茶ノ水駅が一瞬地上に出る意味
陣内:建築史家の長谷川堯さんが1977年に刊行した『建築有情』というエッセイ集は、聖橋の上に立ったときの感動から始まるんですよ。当時から、ここが都内で最高のビュースポットだった。
北河:JR御茶ノ水駅と丸ノ内線の御茶ノ水駅は、両方とも駅舎がモダニズム建築です。御茶ノ水は、江戸時代からの歴史の中に息づきながら、モダンな駅と橋に囲まれた、特異なデザイン空間を持っています。
皆川:地形と土木のマリアージュ!
北河:丸ノ内線といえば、御茶ノ水駅付近で一瞬地上に出ますよね。その橋も、車窓から景色が見えるように、わざと桁高を低く設計しているそうです。
皆川:おお、そんな粋な計らいがあったとは(笑)。
北河:橋の外観も、頭が平滑なリベットを使うことでスッキリみせている。景観的にはそこも注目ポイントです。
陣内 秀信
法政大学教授・工学博士・中央区立郷土天文館館長
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じんない ひでのぶ / Hidenobu Jinnai
1947年福岡県生まれ。専門はイタリア建築・都市史。イタリアを中心に地中海世界の都市研究、調査を行ういっぽう、江戸東京学の牽引者のひとりでもあり、『東京の空間人類学』でサントリー学芸賞受賞。2003年からは、法政大学エコ地域デザイン研究所所長として、地域に根ざした都市論を展開する。著書に『水都ヴェネツィア その持続的発展の歴史』、共編著に『外濠―江戸東京の水回廊』『水の都市 江戸・東京』『水都学』など。
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みながわ のりひさ / Norihisa Minagawa
1963年群馬県生まれ。2003年に石川初と東京スリバチ学会設立。以降、全国各地で凹凸地形に着目したフィールドワークと、その記録を続けている。2014年には町の魅力を発見する手法や取り組みが評価され、東京スリバチ学会としてグッドデザイン賞を受賞。著書に『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』(続編もあり)、共著に『東京スリバチ地形入門』など。
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きたがわ だいじろう / Daijirou Kitagawa
1969年静岡県生まれ。フランスのエコール・ナショナル・デ・ポンゼショセ博士課程修了。博士(国土整備・都市計画)。現在、東京文化財研究所勤務。専門は土木史。2014年から土木学会土木図書館委員会でドボ博の設立・運営に関わる。著書に『近代都市パリの誕生』(サントリー学芸賞、交通図書賞)、『技術者たちの近代』、共著に『図説日本の近代化遺産』など。