英国テロでわかったイスラム国の「弱体化」 政治的影響力は確実に低下している

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同じようにドイツでも、昨年いくつか発生した過激派によるテロ事件により移民に対する反発があおられていたが、これも徐々に勢いを失っているように見える。昨年12月にベルリンのクリスマス市場で死者12人を出すトラック突入テロがあったにもかかわらず、である。アンゲラ・メルケル首相は9月の国政選挙で再選されることが確実視されており、おそらく彼女の力はさらに強化されることになるだろう。

英国では、マンチェスター爆発事件を受け、各政党が選挙運動を一時的に差し控えている。だが、事件が選挙に影響を及ぼすことはなさそうだ。国家当局は今のところ、テロ警戒レベルをさらに引き上げることはしないといい(編集注:その後、最高レベルに引き上げている)、国民も、2015年以来厳重な警戒態勢で、警官に異例の調査権や逮捕権が与えられているフランスのような処置は望んでいないようだ。

現状では、警官の姿が至るところに見られる程度である。コンサート会場と近くのレストランが攻撃されて死者130人を出した2015年11月パリのテロ事件では、ISは、テロリストを中東から欧州へ送り込むことに成功したように見えた。

「一匹狼」を追跡するのは困難

しかし最近では、概してISは、インターネットでプロパガンダを広め、過激化した個人がテロ攻撃を犯した後で、その存在を主張する声明を出すようになっている。

こうした中、欧州の治安部隊は、張り巡らされた軍事網で包囲することにかけては熟達してきた。が、「一匹狼」を追跡するのはより困難なのだろう。もしマンチェスター事件のテロリストが大きなグループの一員であれば、メンバーたちは比較的早くに特定されただろう。

マンチェスターのコンサート会場のような「無防備な」攻撃目標を守るのは、不可能といえないまでも困難がつきまとう。即席の爆破装置は、技能のある人物が必要材料を手に入れさえすればいつでも作ることができる。警察は、成分の購入先を追跡して爆発物が完成する前に逮捕できるようにはなりつつある。しかし、ニースのトラック突入やそのほかのテロに見られるように、粗削りで効果的な攻撃方法はいくらでもある。

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