仏大統領選、マクロン当選でも極右は死なず 若きリーダーの政策遂行力に国民は不信感
マクロン氏は「親EU」。EUとの連携強化を訴えた。法人税率引き下げなど企業寄りの姿勢を鮮明にする一方で、年金支給開始年齢については現行の62歳を据え置くなど弱者にも寄り添う。まさに右も左もない政策である。「意図的に政策をあいまいにしている感がある」と語るのはフランス日刊紙記者。有力候補者が旗幟を鮮明にする中で、こうした手法が奏功し、幅広い層の取り込みに成功した面もありそうだ。
ただ、マクロン氏の経済政策には、不安も残る。特に懸念されているのが財政再建への本気度だ。同氏は5年間で再生エネルギーや教育などの分野に500億ユーロの成長投資を行う方針を掲げる。ほかにも住民税減税や軍事、司法、刑務所関連の支出などを増やす考えだが、フランスの週刊誌ロブスは「どうやって帳尻を合わせるのか」と疑問を投げかける。
社会保障費や失業給付の圧縮、国家ならびに地方自治体レベルの歳出削減などを通じ、5年間で600億ユーロを捻出する計画をマクロン氏は掲げる。公務員の12万人削減なども打ち出すものの、「公共サービスを犠牲にすることなしに、それらをどのようにして達成できるのか、ほとんど言及していない」(ロブス誌)。
政策の遂行力にも疑問符が付く。マクロン氏は自らが立ち上げた政策集団「前進!」を政党に変えたうえで、6月の国民議会選挙に臨む構えだが、過半議席の確保は難しく、大統領の出身政党と議会の最大勢力が異なる「ねじれ」が生じる可能性がある。他党との連立を余儀なくされる公算もあり、現時点で掲げる政策をどこまで実現できるかは流動的だ。
財政赤字や若年の失業対策など困難山積
フランスの2016年の財政赤字は対名目GDP(国内総生産)比で3.4%。EUの基準値である3%を超えている。財政規律を重視するドイツからみれば、フランスの財政再建への取り組みは物足りないものに見える。ドイツの政財界に強い影響力を持つコンサルティング会社の創業者、ローランドベルガー氏は「マクロン氏の経済政策は中途半端」とクギを刺す。
失業者対策も引き続き、大きな課題の一つだ。同国の失業率は10%前後。特に若年層の就職難は長期化している。3月時点での24歳未満の失業率は23.7%と、EU28カ国の平均(17.2%)を大幅に上回る。今回の大統領選で、中道左派と右派の政党の候補が決選投票に進出できないという異例の展開になったのも、「既成政党では何も変わらない」という有権者の失望が背景にある。
大統領選で躍進を遂げた急進左派の候補、ジャン=リュック・メランション氏が打ち出したコンセプトが「デガジスム」。「degager(自由にする、解き放つ)」というフランス語に由来する言葉で、「古い政治からの決別」を意味する。「フランスの危機は、“経済危機”というよりもむしろ“信頼の危機”」。商業・手工業・消費・社会連帯経済担当相として、マクロン氏とともにマニュエル・ヴァルス前首相時代の閣僚に名を連ねていた、現オクシタニー・ピレネー=メディテラネ地域圏議会のキャロル・デルガ議長はそう語る。
決選投票での棄権率は20%を上回ったもようだ。仏内務省によれば、前回2012年は19.65%だった。この数字はいったい何を物語るのか。国民の間に広がる不信感を払拭できるようなシナリオを、マクロン氏が提示できなければ、極右勢力はすぐに息を吹き返すだろう。
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