小田急が1年も前から新ダイヤをPRする事情 複々線化で「混む・遅い」イメージの払拭狙う

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では、混雑と並ぶ課題である「遅い」面はどのように変わるのだろうか。「都心までの所要時間でいうと、例えば平日の朝ラッシュ時で町田から新宿まで10分程度短縮されることなどが強みの一つ」と飯田氏は言う。

平日の朝8時30分ごろ新宿に到着する列車を例にとると、現在48分かかっている町田―新宿間(約30キロメートル)は10分短縮されて38分となるほか、海老名―新宿間(約42キロメートル)も1時間から51分に短縮される予定。同じ時間帯の近隣他線の所要時間は、町田―新宿間とほぼ同じ距離のJR中央線日野―新宿間が約47分、京王線の高幡不動―新宿間も急行で同程度だ。同じ所要時間でも小田急は通勤圏が他線より広がることになる。

遠距離の利便性向上を図るのは、将来に向けた布石でもある。今のところ輸送人員は増え続けているものの、将来的な人口減少は避けられない。スピードアップによって通勤圏を広げるとともに、郊外の駅周辺開発によって生活の利便性やブランド力を高めることで、今のうちに沿線に住む人口を増やしたいという狙いも見える。

ハード面の整備だけでは限界も

小田急線は今年の4月1日、開業から90周年を迎えた。複々線化は同社が「50年以上追い続けた夢」、つまりこの事業に歴史の半分以上を費やしてきたわけだ。現在、首都圏で進む鉄道の輸送力増強策としては最大規模といえる同線の複々線化。激しい混雑に悩む近隣の鉄道事業者も、混雑緩和が実現する小田急に利用者の一部が流れることを期待しているという。

とはいえ、複々線完成後の混雑率は、現在よりはだいぶ緩和されるものの160%程度。国土交通省が目標値として掲げる、東京圏の主要31区間の平均値である150%よりもまだ高く、現在の西武池袋線(159%)や東急東横線(163%)と同レベルだ。長い歳月と多額の費用を投じて大規模なインフラを整備しても、ラッシュ時に集中する輸送量にはなかなか追いつかないという通勤鉄道の混雑緩和の難しさが現れているともいえる。

東京都は4月28日、通勤ラッシュの緩和に向けて時差通勤などを呼びかける「快適通勤プロモーション協議会」の初会合を開いた。さらなる混雑の解消に向けては、鉄道事業者によるハード面の対策だけでは厳しい面がある。神奈川県内や都内南西部から都心へと向かう大動脈である小田急線。複々線がもたらす効果を有効に引き出すためには、社会全体での通勤混雑緩和に向けた取り組みも不可欠となるだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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