「骨太方針」をめぐる予算の議論が低調な理由 国政選挙なく、政策の争点も際立たぬ現状

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そして最も影響しているとみられる理由が、2018年度予算まで継続するとしている予算編成の「目安」を維持することがほぼ黙認されていることである。

予算編成の目安とは、当連載の拙稿「医療介護ではどの費用項目が削られるのか」でも詳述したが、2015年6月の「骨太の方針」と同時に閣議決定された「経済・財政再生計画」に盛り込まれたもの。2018年度までは3年間で社会保障費のみで1.5兆円の増加、全経費では1.6兆円の増加に抑えることが目安とされている。これまで2016年度と2017年度の予算では、この目安を達成できた。残る2018年度は、社会保障費が0.5兆円の増加、社会保障費以外の経費が2017年度とほぼ同額となるように、予算編成をすれば、目安は達成できる。

こうした厳しい歳出抑制は直ちにやめよ、と主張する政治家はいるものの、過去2年間、異論が出つつも目安を達成できたのだから、残り1年も達成できるだろう、という雰囲気が今のところ勝っているようである。目安を外すと、歯止めのない歳出増圧力にさらされて収拾がつかないから、与党内の秩序を保つために目安を守ろう、という意識も働いているようだ。予算編成方針は前年踏襲でよい、ということなら、強い異論も出ず、目立った議論もない。これが予算編成の話題が例年よりも低調な背景だ。

しかし、逆にいえば、目安よりも厳しく歳出抑制をするという雰囲気は、ほとんどない。しかも、2018年度までこの目安を保てば、また2019年度予算と2020年度予算でもこの方針を延長すれば、2020年度の基礎的財政収支を黒字化できる、というほど甘くはない。さらなる歳出改革の努力が求められる局面である。

薬価や待機児童、整備新幹線にも注目

2018年度予算は、注目点の乏しい平凡な予算、とはとても言えない。われわれの生活にも影響の大きい改革が予算内容に反映されることが予想される。たとえば医療や介護では、診療報酬と介護報酬の同時改定を2018年度に行うことが決まっており、この内容次第で給付や負担が決まるので、生活にも影響が及んでくる。

今年の「骨太の方針」をにらみ、2018年度予算に関連して、目下話題となっているものを少し紹介しよう。

政策的経費で最大の社会保障費では、経済財政諮問会議で昨年来取り上げられて宿題となっている、薬価制度の抜本改革(これが具体化すれば医療費の中で薬剤費の増大を抑えられる)の方向性をどうするか、である。また、少子化対策として現在進行中の「待機児童解消加速化プラン」に次ぐ新たなプランを6月をメドに取りまとめることになっており、その財源対策も焦点である。ちなみにこども保険は、必ずしもこの文脈と関連する議論ではない。

さらに社会保障以外では、北陸新幹線の小浜―京都―新大阪ルートの詳細調査も注目だ。今年3月には与党で小浜―京都―新大阪ルートを決定したが、うち京都―新大阪間は、現在の東海道新幹線の線路を使うのでなく、京田辺市付近を経由する新線を想定している。ただこれは着工が決定したのではない。このルートで詳細調査を始めることを決定したのであり、調査結果次第では着工しないという決断も今後ありうるというものだ。

現に概算した建設費の段階で、敦賀―小浜―京都―新大阪ルートの費用便益分析において、便益対費用(B/C)は1.05とかろうじて1を上回るものの、今後の費用の上振れなどによって1を下回る可能性がある。1を下回ることは、費用をかけたほど便益はないということだから、公共事業の実施判断として、1を下回れば実施しないということだ。ちなみに、このルートの建設は平成43年度(2031年度)を想定しており、そこから工期が15年間かかると見込まれ、完成するのは平成58年度(2046年度)。その頃には東京から大阪までリニア中央新幹線がもう開通している(当初の平成57年度〈2045年度〉を最大8年前倒しされる予定)だろう。

5月から6月にかけては、「骨太の方針」をにらんで予算がらみの話題が、さらに出てくるだろう。その内容は、国民一人ひとりの生活にもかかわることだけに、目が離せない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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