定年後、年収が激減しても夫婦でもめない法 「家庭内マネー戦争」を事前に回避するには?

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大事なことは、お給料全体(年収)の中で、「(食費などの)家計に必要なおカネ」「小遣い」など、財布の中身をそれぞれ改めて把握することだ。もし夫婦共働きであれば、「夫婦それぞれの財布」と「家計全体の財布」の2つとも、つまびらかにすることが重要だ。

「収入」と「財産」を「棚卸し」することが成功の秘訣

おカネは「現役時代」ならば、とりあえず毎月家計が回ってさえいれば、「離婚」という事態にでもならないかぎり、あまり問題にならないものだ。だが、定年を迎えるとなると、話はまったく別だ。一般的には収入が大幅に減るわけだから、自宅の価格や貯金などの「ストック」を含め、家庭内の財産がどうなっているかを1度「棚卸」をして、夫婦間で共有しておくのが好ましい。

「わが家」は、夫が定年を迎え起業したのだが、資産と収入以外に、支出についてもざっくりとだが、情報共有している。実は、夫が定年を迎える3年前ぐらいから、定年後の数年間は、2人で相当きめ細かな家計簿をつけていた。具体的に言うと、「家計簿ソフト」を利用して、それぞれの携帯電話などを使って入力して、収入と支出を合算する手法をとっていた。こうすることで、定年を迎える前から、月間はもちろん、年単位での支出がおおよそつかめていた。

定年後にどの程度の水準の生活を送るかは、夫婦それぞれである。だが、どの程度働くかを含め、定年後の過ごし方を決めるうえで、おカネのことはとても大切である。というのも「保有する資産」と「見込める収入」によっては、定年後の選択肢が狭まる可能性が大いにあるからだ。暮らしていくうえで「おカネ」は必要なのだから、そこはガラス張りにしていくしか仕様がない。逆に言えば、定年まで時間がある方々は、その選択肢を広げるためにも、できるだけ老後資産を準備しておくことをお勧めしたい。

私の場合、夫が起業するにあたり、たとえ成功しなくても、赤字が膨らまなければ、まずまず贅沢をしなければ暮らしていけることはあらかじめ確認していた。前回、自分も20年以上勤務していた会社を夫の起業に合わせて退職したことを書いた(定年後の「起業」、背中を押すのは妻の役目だ)が、退職決定に当たっては、資産とその後の収入について、いくつかのパターンをつくって試算してみた。その際は、なるべく「最悪のケース」を想定した。たとえば夫の起業した会社の収入がゼロで、かつ夫が早々に亡くなったとしても、それでもつつましやかには生きていけそうだ、と確認してから、退職を決断した。

「おカネ」というのはやっかいなもので、相手に見せないと「疑心暗鬼」になりやすい。相続でも、資産額があまり多くなくても争いが絶えないものだ。むしろ、資産額が少ないほうがいわゆる「争族」になりやすいとさえ、言われている。言うまでもないが、もし夫婦でおカネのことでもめだしたら、「家庭内平和」は絶対に保てない。

実は、私も夫と同じ考えで、まさかのときの保険や、ローンに頼るのは大嫌いである。それだけに、楽しい旅行やおいしい食事、病気をした時の医療費、将来お世話になる介護の費用も、自分たちの資産と収入からしか捻出できない。定年後、夫婦として、おカネをどこにどう使うかは、互いのライフデザインを作るうえには欠かせない。もし、おカネに関して話す機会を逸してきた夫婦なら、「定年」はちょうどいい棚卸しの機会である。最初ちょっぴり恥ずかしいかもしれないが、定年を期に、ふたりで大事なおカネの話に取り組んでみてはいかがだろうか。

大江 加代 確定拠出年金アナリスト

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おおえ かよ / Kayo Oe

大手証券会社に22年勤務、サラリーマンの資産形成にかかわる仕事に一貫して従事。退社後、夫の経済コラムニストである大江英樹氏(株式会社 オフィス・リベルタス 代表)を妻として支える一方、確定拠出年金の専門家としてNPO確定拠出年金教育協会 理事、企業年金連合会 調査役として活動。野菜ソムリエの資格も持つ。

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