「夜は短し歩けよ乙女」人気小説アニメの裏側 作者から見たビジネスの功利と作品への葛藤
――アニメ化で小説のファンは広がりましたか。
『四畳半神話大系』の文庫本はすごく売れました。初期の作品だったので単行本が発売された時点では知る人ぞ知る、存在感の薄い小説でした。でも文庫本で今の表紙に変え、アニメ化されたおかげで存在感がすごく上がりました。
『有頂天家族』のほうが普段からアニメを見ている人に届いた感じがします。僕の小説は若い人が読んでくれていたので、一度手に取ってもらえれば意外に面白いと思ってもらえるはずですが、きっかけがないと難しい。アニメになったおかげで普段は小説を手に取らない人にも届いたと感じました。
まったく意図していませんでしたが、僕の小説は登場人物やアイテムなどが複数作品にまたがって出てくるなどつながりがあります。ずるずると連動して他の作品も少しずつ売れる傾向があり、これはまったく考えていませんでしたがいい商売です(笑)。
「何もしていないのに意外と存在感が持続できた」
――経済的な効果も大きい?
特にこだわりはありません。ただアニメのおかげで読者が広がり、生き延びることができました。2011年ごろから調子が悪く、数年間は積極的に本が出版される状況にならず、結構な空白期があった。たまたまその間に『有頂天家族』のアニメがあったことで、何もしていないのに意外と存在感が持続できた。
この苦しい時期を何とかしのぎ、またポツポツと本を出せるようになったので、僕の場合は救われた感のほうが強い。逆に申し訳ないんです。自分の原作でアニメ業界の方々がエネルギーを注ぎ、制作してくださる。いろいろな作家がいて作品もあるのに、僕ばかりいろいろとアニメ業界の有能な方に映像化してもらうというのが申し訳なくて。
――自分の作品、つまり子どもたちに大変なときを助けてもらった。
本当にそうです。小説を書く気持ちが弱まっているとき、アニメ化されることで原作者としてエネルギーをもらい助かりました。小説家は共同作業的なものでなく、編集者と自分だけでやっている。だからアニメのイベントに呼んでもらえるのは純粋に楽しいし、何かチームの一員になった感じが普段の仕事では味わえない。
――小説家という仕事への影響は?
基本はやる気。いい作品を書いていかなければと思う反面、映像に引きずられて自分のフォームを見失う危険性もあるので両刃の剣(笑)。監督やプロデューサーが熱心に小説を読み込み、作品への解釈を細かく面と向かって聞くことは、普通に小説を書いていては経験することがありません。
『有頂天家族』もアニメのイメージで押さえ込まれたものを打ち破り、何とかアニメ化しにくいものを書きました。映像化しにくいから監督は苦労するだろうなと書かないのはよくない。面白ければやるべきだし、そこは遠慮しないように気をつけました。きっちりとした解釈で組み立てるやり方だと、自分の小説が死んでしまう。そこから逃れていくものを入れていかないと延命できません。
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