「夜は短し歩けよ乙女」人気小説アニメの裏側

作者から見たビジネスの功利と作品への葛藤

――森見作品の中でいちばん売れた作品が『夜は短し歩けよ乙女』。他作品のアニメ化とは意味が違う?

この作品は売れ方がメジャーなのに、内容がメジャーじゃない。自分で読み返しても夢のような小説で、「なんじゃこれ、よく成立しているな」と思います。どうして書けたか自分でもわからないし、内容も破綻し、いびつなバランスで成り立っています。

『夜は短し歩けよ乙女』(C)森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会

最高に映像化が難しい小説なのに、僕の中でいちばん売れた小説だから読者の方が期待してくれています。それを制作する側の負担を考えると、お任せするのが申し訳ないと感じるほど。

正直、そんなに売れていなかった『四畳半神話大系』は、僕にとってそこら辺に放っておいて勝手に育った腐れ学生の薄汚いイメージでこだわりがありませんでした。一方で『夜は短し歩けよ乙女』はかわいい大事な箱入り娘だから、お任せしたときの気持ちは違いました。

――4月から放送開始の『有頂天家族2』は、2013年にアニメ化された『有頂天家族』の続編。小説の続編執筆時は、アニメ作品の世界をイメージしましたか。

アニメのイメージがあるとノベライズ本みたいになってしまいます。『有頂天家族』はアニメ化される前に書いたからやりたい放題だったのに、続編はアニメ放送が終了し、ほとぼりが冷め切ったあたりでようやく書けました。

『有頂天家族2』(C)森見登美彦・幻冬舎/「有頂天家族2」製作委員会

いちばんきつかったのは、頭の中でくっきりと映像化したり、うっかりアニメの声が聞こえてきたりしたこと。『有頂天家族』は吉原正行監督も「小説を映像化することで、視聴者に映像のイメージが固定されかねないので、変なことはしたくない」と言ってくれましたが、それは読者だけの問題でなく、書き手の自分も影響を受けることを、アニメ化された後にようやく知りました。そのおかげで自分が小説を書くことと映像との関係について、だいぶ考える機会が多かった。

文章が膨らんでいく過程で主人公の感情や風景が出てきて、その先に物語が出てくるのが僕の書き方。最初にぴっちりと物語や場面があるわけではないので、アニメの制作過程をたどるような書き方ではだめ。きっと映像化やリアリティを考えて変なことをすると『夜は短し歩けよ乙女』みたいな変な小説の世界には到達できなかった。

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