「燃料電池バス」が握る?水素社会実現のカギ 21日から都バスで2台が運行開始

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一般のディーゼルバス(左)と並んだ2台の燃料電池バス(記者撮影)

燃料電池バスについて、都は2020年までに全体で約100台、都バスで約70台の導入を目指している。水素エネルギーの普及に向け「一歩先んじて、このように公共のバスでやってみることが(水素社会の)土台作りになる」(小池知事)との考えだ。2020年の五輪に向けて都が計画している、都心と臨海部を結ぶBRT(バス高速輸送システム)でも、燃料電池バスの導入が想定されている。

だが、普及に向けては課題も多い。まずは車両の価格だ。今回の燃料電池バスの価格は1台約1億円といい、一般のディーゼル路線バスの新車がおおむね2000万円台なのに対して高額だ。特に民間バス会社が導入する場合は大きなネックとなりそうだが「国の補助と合わせ、ディーゼルバスと同程度で購入できるよう、都も『燃料電池バス導入促進事業』によって補助する」(都環境局)という。

さらに、水素を供給するステーションの整備が目標通り進むかどうかも課題だ。都では2020年までに約70台の燃料電池バス導入を目指しているが、具体的な導入計画については「水素ステーションの整備状況にもよるので、今のところは何とも言えない」(都交通局)という。

ステーション整備はバスとともに?

一方で、燃料電池バスの増加が水素ステーションの整備を促す役割を担うという見方もできる。経済産業省の「燃料電池自動車等の普及促進に係る自治体連携会議」の資料によると、燃料電池バスは1台で燃料電池乗用車45台分の水素を消費するという。一般の乗用車と違い、決まったルートでダイヤ通り走り、かつ消費量の大きいバスは水素の安定的な供給先として、ステーションの運営を支えることにもなるわけだ。

都環境局によると、現在都内にある水素ステーションは12カ所。目標では2020年度まで35カ所に整備するとしており、「バスの走る沿線で整備が進むよう設置を働きかけていく」という。

水素ステーションの整備が進まなければ、バスだけでなく一般にも燃料電池車の普及は望めない。公共性の高いバスが水素利用の先陣を切ることでステーションの整備を促し、ステーションの増加が一般の乗用車も含めた燃料電池車の増加につながる……という循環を生み出せるか。国や都が目指す「水素社会」の実現に向けては、燃料電池バスの導入と歩調を合わせたステーションの整備が一つのカギといえそうだ。

2台が走り出したばかりの燃料電池バス。果たして20年の五輪開催時には珍しくない存在になっているかどうか、今後の進展が注目される。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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