なぜ日本の駅前広場は「噴水だらけ」なのか

公的空間のまったく新しい利用法とは?

――日本においては、明治時代になるまでは西洋的な広場はなかったといわれています。その代わりに広場的な機能を、広小路、橋のたもと、寺社の境内などが果たしていました。特に橋のたもと――いわゆる「橋詰広場」には、往来をチェックする番小屋が設けられたり、許可制の飲食店や髪結い処もできたりするなど、商空間が形成されました。

稲本 健一(いなもと けんいち)/株式会社ゼットン会長。1967年名古屋市生まれ。大学でデザインを学び東京の商社を経て名古屋のデザイン事務所へ。ビアガーデンのプロデュースでの成功をきっかけに 本格的に飲食ビジネスの世界へ入り、1995年ゼットン設立。「店づくりは街づくり」の理念のもとに、通常の店舗出店に加え、公共施設の開発事業にも力を入れ、名古屋市の「徳川園」や横浜市の「横浜マリンタワー」などでの店舗展開に成功。2016年から現職

木下:江戸時代には、火事があっても火が燃え広がらないように橋のたもとに緩衝地帯を作っていたら、そこで勝手にいろんな人が商売を始めちゃったって話がありますよね。その商機能が江戸の市民から求められているということで、幕府も途中から勧告を出さなくなって、どんどん許可されていったという歴史的経緯があったりします。実は公共資産利活用は江戸時代にもあったんですよね。

馬場:文化人類学者の網野善彦さんが、都市の起源として寺社の境内と河川沿いの広場を挙げています。そこは誰の所有でもない無主無縁の地なので、自由闊達な商業活動が沸き起こり、そこから都市が広がっていったという説です。もしかすると日本の広場の原点は境内かもしれません。ところが、いつの時代からか、そこに規制が入るようになりました。

野尻:どこかの時期――たぶん高度成長期に大きく変わったんですよ。このとき新幹線の駅をダダダッと作らなきゃいけなかったんだけど、そこでできた駅前の概念を“コピペ”していった。日本中に同じような駅前の「交通広場」が出現し、それがいつしか日本人にとっては広場=駅前という発想になっていったんだと思いますね。

「利用者目線」に立った広場のアイデアがなさすぎる

再開発が予定されている品川駅・西口側。ペデストリアン(歩行者)デッキをつくることが優先されすぎていないか(写真:5x5x2 / PIXTA)

稲本:僕がいまの駅前の再開発プランの完成予想図なんかを見ていて気になるのは、「ペデストリアンデッキ」(駅と駅前のビルとを連絡する、広場と歩道橋の機能をもつ高架建築物)という言葉が、やたらと目につくことです。車両と歩行者の分離をお題目にして、あちこちの主要駅の再開発でペデストリアンデッキがどんどん出現している。

木下:ペデストリアンデッキで駅と連絡されたビルは利便性が高くなっていいんですが、つながっていないビルは逆に駅とのアクセスが悪くなるという問題もありますよね。さらにデッキの下には巨大な暗がりができてしまい、路面価値は逆に低下してしまうんですよね。

稲本:別にペデストリアンデッキが悪いというわけじゃないんですが、そこに「歩く」以上の機能がないのが問題だと思うんです。

馬場 正尊(ばば まさたか)/株式会社オープン・エー 代表取締役。東北芸術工科大学教授。建築家。1968年佐賀生まれ。博報堂などを経て、2003年Open A Ltd.設立。都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京の日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断する活動をしている。2015年「公共R不動産」開始

馬場:広場的機能を持っているはずのペデストリアンデッキですが、そこでの商業活動はもちろんイベントすらできないよう厳しく制限されています。

野尻:これから始まる品川駅西口の再開発でもペデストリアンデッキが計画されていますけど、どういう要望があって設計されているんですかね。

馬場:こういう空間ができていくプロセスに、あまりにも利用者目線に立ったアイデアがなさ過ぎなんです。特に道路や橋などの土木の世界には、デザインが入りにくいという意識がある。建築(ビルなどの建物)については公開型のプロポーザル(提案)などでデザイン的思考が入るプロセスがまだあるんですが、こと土木がつかさどる空間については、情報公開性が乏しいんです。

野尻:駅前の再開発事業の数なんて、都内だけでも軽く2ケタは超えるでしょう。ちゃんとデザインしないと、また交通機能しかない駅前が増えるだけなんじゃないかな。

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