「AI乗合バス」は交通難民の救世主となるか 高齢化率33%の函館市で実証実験、実用化へ

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中島教授はコンピューターによるシミュレーションで、この常識が誤りであることを実証する。乗りたい人がどこにいるかを正確に知ることができれば、都市部の方が人口の多い分、乗り合いバスは路線バス以上に輸送効率を上げられる。その結果、シミュレーション上、燃料の総消費量を抑えることが出来るのだ。

はこだて未来大学の学長に就任した2004年。中島教授は新天地で、公共交通機関がうまく機能していない現実を目の当たりにする。「全国的な高齢化を見据えると、高齢化が急速に進む函館市で実験することにこそ意義がある」。そう思いさだめた中島教授は科学技術振興機構(JST)からの研究助成を受けて、函館市で実証実験を重ねてきたという。

AIバスの実用化のためにベンチャー企業「未来シェア」を2016年7月に設立した。はこだて未来大学にとって初めての大学発ベンチャーだ。東大の兼業規定の関係から、未来シェアで中島教授は代表権のない取締役会長となり、代表取締役社長は同大学副理事長の松原教授が就いた。

真骨頂は完全自動配車

専用アプリでバスを呼ぶと、運行情報が表示される(撮影:大澤誠)

AIバスでは、まず専用アプリをダウンロード。乗りたい人がスマートフォンでバスを呼ぶ。乗りたい場所(乗車位置)と降りたい場所(降車位置)を地図上で指定すると、「配車が完了しました」「2号車が配車されます」「乗車予定時刻は何時何分〜何時何分」「目的地到着は何時何分頃」などと表示される。

ここまでなら、すでに実用化されているタクシーの配車アプリと大きな違いはない。AIバスの真骨頂はここからである。呼ばれたバスが乗車位置に向かう途中、別の乗客から「乗りたい」との入力があり、そのバスに乗せた方が最も効率がいい場合は、その乗客を乗せるためにやや寄り道をするのだ。「10分以内の誤差で乗車させられるなら、別の乗客を乗せるために新たな乗車位置に向かう」(松原教授)のだという。

運転手はナビゲーションの表示に従って、乗客を乗せるために「寄り道」もする(撮影:大澤誠)

この「最も効率がいい配車」を計算するのがスマート・アクセス・ビークルの頭文字をとった SAVという配車計算アルゴリズムだ。これにクラウドプラットフォーム(仮想サーバーを用いた情報通信基盤)を組み合わせる。人工知能の重要な機能である機械学習と、リアルタイムで情報を処理する通信基盤を融合することで、最も効率の良いルートを探し当てることができる。このSAVは、既存のタクシーのように人が配車を管理・決定するのではなく、人工知能によって完全自動で配車するのがミソだ。

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