新幹線の「グランクラス」は儲かっているのか 客室狭い先頭部、普通車にするよりも有利?

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グランクラスは当初「はやぶさ」用としてデビューを果たし、E5系の数が増えるとともに「はやぶさ」以外の列車に用いられるようになった。ならば、JR東日本もE5系を製造する際に2種類を用意すればよかったのではと思われる。一つは「はやぶさ」用にグランクラスを連結した編成、もう一つは「はやぶさ」以外の列車用にグランクラスのスペースを普通車とした編成だ。

しかし、このように編成を分けることは長い目で見ると得策ではない。東北新幹線には山形、秋田両新幹線の列車も乗り入れ、また東京-大宮間では上越、北陸両新幹線と共用している。さらに、起点となる東京駅にはわずか4本の線路しか敷かれていないにもかかわらず、多数の列車が忙しく発着し、折り返し時間は最短でわずか4分しかない。

仕様を分けるとかえってロスになる

北陸新幹線E7系のグランクラス(撮影:梅谷秀司)

このような状況で、たとえば列車の遅れによって本来使用する車両を差し替えるとなると、「はやぶさ」にグランクラスの連結されていない編成が充当される可能性が生じる。さらに、もしもそのときグランクラスが満席であった場合、JR東日本はグランクラス料金を払い戻し、該当の旅客にはグリーン車や普通車に乗ってもらわなくてはならない。

それでも乗ってくれればまだよいが、旅客が機嫌を損ねて旅行自体を取りやめてしまったら、乗車券も含めて払い戻す必要が生じ、売り上げはゼロになってしまう。こうした失態を演じなくて済むよう、JR東日本はE5系のすべての編成にグランクラスを連結しているのだ。

多少の無駄を承知のうえで、上級の設備をもつ車両をすべての列車に連結しているケースは東海道新幹線にも当てはまる。3両連結されているグリーン車は「のぞみ」に使用したときにはそこそこの乗車率であるが、「ひかり」「こだま」では芳しいとはいえない。だが、列車によって編成を分けてしまうと乗車率以上に大きなロスが生じると見なされているのだ。

グランクラスの先祖というと、国鉄時代の1960年に登場した「パーラーカー」という、東海道本線の特急用の車両が挙げられる。実はパーラーカーの使用方法もグランクラスと同じ思想に基づいており、本来は必要ではないと考えられた列車にもあえて連結された。パーラーカーの収支については、稿を改めて紹介したい。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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