なぜ味の素はアフリカ市場で強いのか? エジプトの食卓に革命を起こす男(下)
味の素を使う効果は味付けの補完にとどまらない。だしを取るといった、時間と手間のかかる作業の軽減にもなる。
実際に東南アジアなどの先行地域では、簡単に美味しいスープが作れると定着した。ベトナムではフォー、カンボジアではクイティオ、タイではトムヤムクンといった、日常食である麺料理などにもう欠かせない調味料だ。
さらに、家事を一手に担っていた女性たちが、その膨大な労働から少なからず解放されたことも注目に値する。「味の素が女性の社会進出に貢献した」との評価さえある。
エジプトに先駆け、1991年に最初のアフリカ進出をしたナイジェリアでも同様である。
水汲みから畑仕事までなんでもこなすアフリカ女性。限られた時間でも美味しい料理を食べさせたいという彼女たちの願いに、味の素は応えていった。いつもの味気ない野菜だけのスープを劇的に変えてしまう味の素。現地の女性たちを中心に人気を博し、売上高は100億円を突破。ナイジェリアではすでに生活必需品といわれる。
日本製品のアドバンテージは今も健在
政情不安、人材難、治安やインフラの劣悪さ。アフリカ市場にあるさまざまなリスクの、すべての根底にあるのは貧困だ。人口増を背景にした成長ポテンシャルは高いといっても、その貧困層をマーケットにすれば多くのリスクは避けて通れない。
しかし、どんなに国が混乱しても、治安が悪化しても、人はものを食べる。貧しく制限された状況でも美味しいものを食べたい。そんな欲求にまっ先に味の素は応えることができる。
流通やインフラが整ってない不便さは、彼らが続ける「地を這うような営業」によって独自の販売網を築くことが可能だ。逆に有利なロジスティクスを構築できることになる。また、ローカル化を目指す上で、とことん現地の営業マンを育成することは人材確保の早道かもしれない。現在のエジプトのように、経済が悪くなれば有能な人材だって集まりやすい。
アフリカ市場に対しては、中国や欧米に比べて日本企業の出遅れが指摘されるが、電気製品や車などのジャパニーズクオリティの高さは誰もが知っている(たとえ日本人を見たことなくても)。中国製品の粗悪さに辟易している多くのエジプトの人たちには、日本製品というアドバンテージはまだまだ健在だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら