保育士の激務は年収323万では割に合わない このままでは、さらに保育士が足りなくなる

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もう一つの理由は、保育士自身が「子どものために」と頑張ってしまうことだ。季節の行事や発表会の準備をしたり、壁を飾る折り紙や絵などを作ったりといった作業に、多くの時間が割かれてしまう。子どもを思うあまり、昨年の制作物の使い回しをためらう保育士もいる。また、こうした行事や制作物の作業を減らしたいと思っていても、園の慣習などの理由で続けざるをえない場合や、保護者からの要請やクレームを受ける場合もある。

「保育所では子どもの安全・安心を確保すること、きちんと保育の記録をつけることなど本質的な仕事をきちんとするべき。(保育士の負担が大きければ)子どもに歌や踊りを仕込むような特別な発表会や、過度な壁の装飾などは省いたほうがよい」と、ジャーナリストで東京都市大学客員准教授の猪熊弘子氏は指摘する。

受け皿拡大でさらに保育士の負担が増す

さらに、政府が進める保育の受け皿拡大が、保育士の負担増を招いている側面もある。

待機児童解消のために定員の弾力化(定員を超えて入所できるようにすること)、面積基準の緩和(時限措置)、保育士の配置基準の緩和など、保育所の基準の緩和が相次いで行われてきた。

「規制緩和で仕事の負担が増し、何か事故が起きたら責任を問われる。こうした状況が、潜在保育士を遠ざけている」と、保育園を考える親の会の普光院亜紀代表は指摘する。

たとえば、従来型の保育所には設置基準より面積に余裕を持って作られた施設もあるが、近年はマンションの一角に設置基準ぎりぎりの面積で作られ、園庭もない保育室も多い。狭いスペースでは、子どもの安全を確保するために保育士が配慮しなければいけない場面が増える。園庭がないと、近隣の公園などに散歩に出掛ける頻度を増やさなければならない。

待機児童対策としての受け皿拡大が、かえって保育士不足につながっているというパラドックス。今後は保育士の「働き方改革」を、待機児童対策の本丸とする必要がある。

平松 さわみ 東洋経済 記者

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ひらまつ さわみ / Sawami Hiramatsu

週刊東洋経済編集部、市場経済部記者を経て、企業情報部記者

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