保育士の激務は年収323万では割に合わない このままでは、さらに保育士が足りなくなる

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2013年の厚生労働省の調査によれば、潜在保育士が保育士としての就業を希望しない理由は「賃金が希望と合わない」がトップ(回答者の47.5%、複数回答)。子どもの命を預かる責任の重い仕事でありながら、全国平均で年収323.3万円(平均年齢35.0歳)と、全産業平均(489.2万円、平均年齢42.3歳)と比べて低いことが問題視されてきた(2015年賃金構造基本統計調査)。政府は2013年以降、段階的に保育士の賃上げを行っており、2017年度も2%(約6000円)の賃上げを行うほか、民間の認可保育所で働く中堅保育士には月給約4万円が上乗せされる方針だ。

とはいえ、ただ賃金を上げれば保育士が確保しやすくなるとは限らない。保育の現場には長時間労働になりやすい構造があり、サービス残業や仕事の持ち帰りが常態化しがちだ。業務負担の大きさから疲弊してしまう保育士も少なくなく、潜在保育士の就業をためらわせる要因にもなっている。

保育士の労働問題に取り組む「介護・保育ユニオン」には2016年6月の設立以降、半年超の間に保育士から122件の声が寄せられた(2017年1月末時点)。うち労働基準法違反が疑われるものが8割(「賃金未払い」91件、「休憩が取れない」78件、「有休が取れない」24件。複数回答)に上り、「パワハラ・いじめ」も28件あった。

子どもを見ながら膨大な書類を作成

「保育士からよく聞くのは、『賃金を上げたい』というより『余裕を持って保育をしたい』という声。休憩を取りたい、持ち帰りの仕事を減らしたいと訴える人は多い。せっかく保育が好きで仕事に就いても、長時間労働が続くとやっていけなくなる」(介護・保育ユニオンの森進生代表)。

なぜ、保育現場では長時間労働が横行してしまうのか。それにはいくつかの理由がある。まず、保育のための作成書類が多いことだ。保育士には、保護者に子どもの様子を伝達する連絡帳をはじめ、年間計画、月案、週案、日案といった保育計画、自治体に提出する書類など、膨大な事務作業がある。子どもを見ながら、こうした作業をすべてこなすことは難しく、どうしても残業や持ち帰りに回す作業が発生しがちだ。

こうした書類は、保育士が手書きで作成しているケースも多く、一般的なオフィスのようにITによる効率化はまだ進んでいない。連絡帳など保護者との情報共有にアプリを導入する例も出てきているが、一方で「パソコンが苦手な園長やベテラン保育士はいまだに多い」(業界関係者)。書類には子どもの個人情報が記されている場合が多く、セキュリティ対策も必要になる。資金に余裕がある園でなければ、IT化の推進に踏み切りにくい。

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