不妊治療の負担は、どうすれば和らぐのか? 不妊治療のプロ、竹原・慶愛クリニック院長に聞く

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負担を軽減するために何ができるのか

――経済的負担については、不妊治療の助成金制度がありますね。

患者さんにとっては助けになると思います。ただ、助成対象を39歳までにしようという議論もあります。40歳以上では、治療成績が下がってしまうことが理由のひとつだと思いますが、不妊に悩む多くの40代の患者さんの助成をやめるというのは、問題も大きいと思います。

また、成果が不確か、という問題では、妊娠・出産といった結果を出してから、料金を受け取る「成果報酬制」を採用するクリニックも出てきています。

――体外受精では、排卵誘発剤を使う刺激周期の治療を行うクリニックが多い中で、昨年まで副院長を務められていたクリニックは、排卵誘発剤をできるだけ使わない、自然周期・低刺激周期の治療を手掛けてこられましたね。

刺激周期がいいのか、自然周期がいいのかは、専門医の間でも議論が分かれる問題です。私自身は、薬をできるだけ使わないようにする自然周期・低刺激周期のほうが、身体にやさしく、安全性も高まり、薬代も抑えられる、と考えています。

一方、刺激周期では、卵を数多く採れるので、採卵の回数も減らすことができ、質の高い卵子に当たる確率が上がり、治療成績もよくなるとされています。しかし、私の経験では、自然周期のノウハウ、技術を整えれば、刺激周期の成績を上回ることができます。また、薬の副作用による身体的負担が少ないので、毎周期の採卵が可能になり、治療費を捻出するための仕事への影響も抑えられる、といったメリットもあると思います。

しかし、自然周期は少数派にとどまっています。課題のひとつは、医療側が排卵日をコントロールできなくなるので、毎日、開院していないと、すべてに対応できない、ということが挙げられます。私は当面、週7日休みなしで開ける方針ですが、小規模な個人クリニックでは限界もあります。

町医者だからこそできること

――患者の精神的な負担に対して、医療側は何ができるでしょうか。

患者と医療機関との間の信頼関係が大事だと思います。不妊治療はうまくいかないこともありますから、それでも納得しながら治療を続けてもらえることが必要です。だからこそ、成績を高めること。技術に対して高い評判、信頼を得ることが第一です。また、患者さんの希望を聞きながら、状況に合わせて、最適な治療法を選択していくことも大切でしょう。

――悩み、精神的負担を抱えた患者を支えることも求められます。

カギになるのはカウンセリングだと思っていますが、専門のカウンセラーが対応すればいいというものでもありません。私が若いころ、ベテランの看護師・助産師が、妊婦さんに「大丈夫よ。私がついているから」と声をかけると安心してもらえる、という様子を見てきました。検査で問題が見当たらないが不妊に悩む患者さんから、「肉を食べられない」と聞いたスタッフが、(医学的な根拠はありませんが……)ホルモンの原料になるコレステロールが足りないのかもしれないと、コレステロールを含む食品を調べてくれたときは、患者さんも非常に喜んでくれました。つねに教科書どおりに進んではくれない医療の世界では、相手を理解し、共感することが大切なのです。

――今年、個人クリニックを開業した動機は何ですか。

もう少し余裕のある診療をしたかったというのが、ひとつの理由です。医療側も患者に深入りするのを避けようとする今の時代には、人の思いや暮らしに密着できる“町医者”だからこそ、できることがあると思っています。これまで、1日100件もの体外受精を行い、学会でも数多く講演して、忙しい日々を送ってきましたが、医者の原点は、人とのふれあいだと思うのです。

(撮影:風間仁一郎)

新木 洋光 フリーライター

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新聞社勤務後、フリーランスライターに。経済誌にビジネス、IT、教育、医療、環境分野などの記事を執筆。

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