就任式の翌日。トランプ支持者探しに協力してくれた日本の友人の紹介で、意外なトランプ支持者に話を聞くことになった。1993〜2015年まで共和党議員を務め、大統領選ではトランプ氏のコミュニケーションチームのシニアアドバイザーとして、メディアに度々出演していたジャック・キングストン氏(61)だ。
ワシントンD.C.の郊外にある自宅に招き入れてくれた。部屋にはホワイトハウスの写真、ブッシュ元大統領やオバマ元大統領との写真などが所狭しと飾られ、家中に政治の空気が漂っていた。
トランプ氏の勝利への感想を聞くと「驚いたよ、勝つとは思ってなかった。本人も驚いていたと思う。ただ、戦う価値のある戦いだと思って戦っていた」と率直に話してくれた。
トランプ大統領は「人をワクワクさせる男」
勝因を尋ねると「"チェンジ"をメッセージとして掲げたこと。これまで取り残されていた人々は、ワシントン政治に嫌気が差していた。ヒラリー氏はまさにその政治の中心にいる人間で、彼女は"チェンジ"を掲げることに成功できなかったんだ」と。
クリントン氏の敗因については「トランプ支持者のことを哀れな人(deplorable)と見下す表現をしたのがまずかった。彼女のイメージは"金持ち"、"ハリウッド"。普通の人間、中間層の人間からかけ離れていた」と。「いやいや、トランプ氏こそ超大金持ちですけど?」と私が口を挟むと、「彼はクイーンズ出身で、粗野で叩き上げのイメージがある。実際にデリで7ドルのパストラミサンドを食べ、ニューヨーク・メッツの話ができる男なんだ」と言った。そんな気さくな雰囲気が工事現場の労働者たちからも慕われているそうで、キングストン氏はトランプ氏のことを何度も「人をワクワクさせる男」と表現していたのが印象的だった。
旅の最終日。空港の搭乗口付近で存在感のあるトランプ支持者を発見した。トランプ大統領をひと目見るためにわざわざモントリオールから来たという、スペインからカナダへ移民した親子だった。
45才の父親は、4年前まで時給35ドルでカナダの工場で働いていたが、工場がメキシコ移転のために閉鎖されて職を失ったことがあるという。その経験から、国内の雇用を守る政策に大賛成と。そこで私は「でもアメリカに工場を作ると製造コストが上昇して、商品の価格も上がって結局国民が苦しみませんか」と尋ねると、「自分が働いていた工場はメキシコに移転して時給6ドルで労働者を雇っていたが、その後も商品の値段は変わらなかったんだ」と説明してくれた。なるほど、そういうことなのか。トランプ氏の女性侮蔑発言に対しては「男が集まれば下品な話くらいみんなする。それが政治家としてダメという理由にはならない」と言い、全く気にしていないという。そして最後に「カナダにもトランプのような強いリーダーが欲しい」と微笑んだ。
機内で今回の取材をゆっくりと振り返った。これまで理解できなかったトランプ支持者の思考が見えてきた。トランプ氏を選んだのは、みんな純粋に自分や家族が幸せで豊かになることを望んでいて、それを叶えてくれそうなのが、上から目線のエリートのクリントン氏ではなく、肩を並べて横から手を差し伸べてくれそうなトランプ氏だったから。少しくらい危険で下品でも、今のアメリカにはトランプ氏のような"劇薬"が必要だと理解した上で選択したのではないだろうか。
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