スイッチ発表後の任天堂株価が冴えないワケ ディズニーにあって任天堂にないものとは?

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ウォルト・ディズニー・カンパニーは映像制作とテーマパーク経営が主要な事業だが、版権ライセンスからは本業を上回る収益を得ている。映画「アナと雪の女王」は、収入は約13億ドル(約1498億円)という空前のヒットを記録したが、永遠にシアターでの上映が続けられるわけではない。中長期的には版権使用料が主な収益となり、最終的に興行収入を超えて利益をもたらし続けるだろう。

ディズニーはコンテンツを生み出し、それ自身で収益を上げながら、さらに息の長い版権事業を展開することで、年間約1兆円もの純利益を生み出している。しかも、クラシックな定番キャラクターが強いため流行に左右されず、それが事業全体を安定させ、近年の版権ポートフォリオ拡大にもつながっている。

任天堂ももちろん、こうしたディズニー型のキャラクター版権事業は参考にしている。だからこそマリオの版権事業を近年拡大しようとしているのだろう。しかし、マリオの版権収益は2015年の数字でわずか57億円しかない。ディズニーと比較するのは酷だが、売り上げ全体の1%程度と考えると寂しいと言わざるを得ない。

任天堂にとってのハンディキャップは、自社キャラクターが活躍するメインフィールドが”ゲームの世界”であることだ。たとえば映画であれば、公開期間を終えてもDVDやブルーレイの販売があり、インターネット配信、テレビ放送などへと展開されるため、消費者との接点が広く、また長い期間続いていく。

ゲームキャラクターの欠点とは?

対してゲームキャラクターは、ゲーム機の世界に閉じがちだ。ゲームボーイやニンテンドーDSの時代には、学校に持ち寄る携帯ゲーム機を通し、子どもたちのコミュニティの間では普遍的な存在となり得た任天堂のキャラクターたちだが、つい最近までゲーム機の外にまでは飛び出すことができなかった。

永遠に携帯ゲーム機が子ども達のマストアイテムであり続ければ、それでも限られた世界において任天堂のキャラクターは活躍できただろう。版権事業の展開にも、さまざまなオプションがあったはずだ。しかしスマートフォンの時代に入り、携帯ゲーム機事業の環境は悪化の一途をたどってきた。それは任天堂の近年の業績を見れば明らかだ。

任天堂はこれまで、ディズニーと類似する特殊な立ち位置を生かすことができなかった。いやあるときまでは必要性を感じなかったのだろう。では今後、任天堂は”ゲーム業界のディズニー”になれるのだろうか? 市場から任天堂に求められていたのはこの点である。

DeNAとの提携によってスマートフォンを通じた消費者との接点を作ろうとし、(完全に自社だけのキャラクターではないが)ポケモンを海外企業へと出張させ、マリオがいよいよアップルの箱庭に降り立った。

この先、どう任天堂は変化するのか。よく考えられた製品、フォーマットであるとはいえ、従来のビジネスを拡張してはいるものの、既定路線を維持することが明らかになったのがスイッチのお披露目会ではなかっただろうか。

任天堂を支えてきた顧客は子どもたち+カジュアルゲーマーである。しかしカジュアルゲーマー、そして子どもたちの一部は、すでにスマートフォンやタブレットへと遊びの場を移している。物心ついたころからタブレットで遊んできた子どもたちの中で、はたしてスイッチは普遍性のあるクラシカルなキャラクターが生まれる場になれるのだろうか。その不安が低調な株価にも表れているのだと思う。

任天堂が取り組むべきは、長年育て上げてきた任天堂ブランドとマリオなどのキャラクターを最大限に生かす版権事業の育成に加え、それらキャラクターがグローバルにおける”クラシック”と言えるまでの定番キャラクターとして定着できるよう、活躍の場を広げていくことだ。そのうえで任天堂を信頼する顧客とのエンゲージメントを高めるよう、キャラクターポートフォリオを増強するため、版権の買収などの積極策に打って出るべきではないだろうか。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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