なぜか「すごい!」と言われる人の話し方 正しいかどうかでは、人の心はつかめない

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・感情の言葉を使う

ここでもヒラリー氏とトランプ氏の違いが出ています。たとえば、ヒラリー氏が「those who will do harm」(害を及ぼすであろう人々)などと客観的な言葉を使うのに対し、トランプ氏は、「bad people」(悪い人たち)と、自分の価値観を前面に出した言葉を使います。

トランプ氏は普通、「雇用が悪化する」「仕事が失われる」などと言うところを、「仕事が盗まれる」と言いますし、「unbelievable」などの、あいまいで大げさな表現も好んで使います(これも会話体の特徴)。ヒラリー氏が客観的な言葉を使うのに対し、聞いている人の感情に訴える言葉を多用する。これも、彼の戦略だったのかもしれません。

『アメリカの大学生が学んでいる「伝え方」の教科書』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

・ジェスチャー

『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(日経BP社)などの著書もあるカーマイン・ガロ氏は、Talk Like TED(『TED 驚異のプレゼン』として日経BP社から邦訳あり)の中で「パワー・スフィア」(power sphere)という空間を提唱しています。

パワー・スフィアとは、話し手の目からへそまでの空間のことをいうのですが、手の動きをこのパワー・スフィア内におさめると、リーダーとして自信があるように見えるのだそうです。

トランプ氏は、2本の指を上下に動かす独特のジェスチャーで話しましたが、この手の動きは、まさにパワー・スフィアにおさまっています。

実は教科書どおりの伝え方

内容はともかく、トランプ氏は、聞いている人との溝を埋め、相手の心に訴えるような伝え方をしていたと言えます。

そして、トランプ氏の伝え方、言葉の使い方やジェスチャーは、実は米国のパブリック・スピーキングの教科書に書いてある「基本」に通じる伝え方でもあります(倫理的な問題などの点に関しては教科書からは程遠いのですが)。

たかが伝え方、されど伝え方。そのコツを知っておいて損はないと思います。

狩野 みき THINK-AID主宰、慶應義塾大学、聖心女子大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師

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かの みき / Kano Miki

慶應義塾大学法学部卒、慶應義塾大学大学院博士課程修了 (英文学) 。考える力イニシアティブ、THINK-AID 主宰。20年にわたって大学等で「考える力」「伝える力」と英語を教える。『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』(日本実業出版社)『プログレッシブ英和中辞典』(共同執筆、小学館) など著書多数。2012年、TEDxTokyo TeachersにてTEDトーク "It's Thinking Time"(英文)を披露し、好評を博した。

子どもの考える力教育推進委員会代表。

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