鉄道メーカー「世界3強」、格差広がる台所事情 政府支援仰ぎ、身売り観測に中国が触手も?

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業績不振のため、ボンバルディアは昨年2月の7000人の人員削減に続き、昨年10月にも7500人の人員削減を発表した。10月に発表された人員削減では鉄道事業が3分の2を占める見通しだ。鉄道事業は赤字の航空機事業と違い安定的に利益を出している。にもかかわらずなぜ鉄道事業がリストラの対象となるのか。

その理由は、ボンバルディアの航空機事業がカナダの基幹産業であるからだ。昨年6月にはケベック州政府が総額10億ドル(約1150億円)の支援を表明しており、カナダ政府も支援を検討中だ。

ボンバルディア・トランスポーテーションのトゥロジュ社長(記者撮影)

このため、ボンバルディアは鉄道事業を売却するのではないかという観測も出ている。2015年にはシーメンスや中国中車がボンバルディアの鉄道事業の買収を検討しているといううわさが出た。昨年9月には、中国中車のトップがボンバルディアの本社があるモントリオールに飛び、両社のトップ同士が戦略的業務提携を結んだ。提携の内容は「長期的な関係強化」「中国と国際市場における提携」といった表現にとどまり、具体性に欠けるが、将来の買収に布石を打ったという可能性も否定できない。

中国中車の売上高は世界一とはいえ、販売先はほとんどが国内に限られている。ボンバルディアを手中にすれば、販路が一気にワールドワイドに広がるほか、高い技術力を得ることもできる。

シーメンスはIoTで攻める

ビッグスリーの残る一角、シーメンスは鉄道だけでなく電力、医療、情報システムなどを手掛ける複合企業である。鉄道事業の業績は順調に伸びているが、最近では独自開発のIoTプラットフォーム「シナリティクス」を使って鉄道車両の予防的メンテナンスにも乗り出した。すでにスペイン国鉄がこのシステムを導入して高速列車の予防的メンテナンスで成果を上げており、昨年10月にはドイツ鉄道もシーメンスのシステムを使って予防的メンテナンスを試行すると発表した。鉄道事業者各社で導入が進めば、シーメンスにとって将来の収益柱になる可能性がある。

アルストムは国内事業の頭打ちで人員整理の危機に陥った。ボンバルディアは鉄道事業こそ安泰だが、航空機事業の赤字が鉄道事業に影響を与えている。逆にシーメンスは他事業と鉄道との間でシナジー効果が発現しつつある。

世界の鉄道産業は成長しているとはいえ、すべての企業がその恩恵を受けられるわけではない。将来を正確に見通して事前に対策を打てる企業だけが生き残るだろう。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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