テレ東「路線バス旅」ヒットの裏に国鉄民営化 バス規制緩和も県境の移動を困難にした

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熊本から世界遺産の三角西港を経て天草諸島に向かう産交バス「快速あまくさ号」。いまや貴重な一般道経由の長距離バスである(写真:筆者撮影)

一方で、1980年代に比べて格段に進歩したのが、路線・時刻の検索手段である。1980年代、筆者は旅のプランニングにあたり、事業者に電話で路線やダイヤを確認したり、時刻表をFAXしてもらったり、事業者が市販する自社の時刻表を郵送してもらったりした。しかし今日、ほとんどの事業者が自社のホームページを持ち、パソコンかスマートフォンさえあれば、全国のバス時刻を検索できるようになった。先のたとえでいえば、いい湯加減だった風呂は熱湯風呂に変わったが、予め温度を測ったり、差し水をしたりするツールは手に入ったということだ。太川&蛭子コンビの旅がうまくいかないのは、番組のルールとして、そのツールの使用を禁止されているからである。

せっかくバス旅の番組が高視聴率をとっているのだから、視聴者のみなさんにはぜひ、検索ツールを駆使して実際に路線バス乗り継ぎの旅を楽しんでいただきたい。そこで、いまも県境を越える路線バスの旅が楽しめる、いくつかのルートをご紹介したいと思う。

京都と滋賀の府県堺で乗り継ぎを楽しむ

石川県加賀温泉郷の片山津・山代・山中温泉と福井県の曹洞宗大本山永平寺を結んで、京福バスの「永平寺おでかけ号」が走る。1日1往復だが、温泉発が朝、温泉着が夕方なので、永平寺参詣に便利。筆者は1990年代、「おくのほそ道」を路線バスでたどる連載を持っていたが、すでにほとんどの県境で徒歩連絡を強いられた。そんななか、当時から今日に至るまで、芭蕉の歩いた道のりに近いルートで走り続けている貴重な路線といえる。

1本の路線ではなく、乗り継ぎを楽しみたいという方には、京都と滋賀の府県境の旅がおすすめ。京阪電車の出町柳駅と滋賀県高島市の朽木学校前を結び、毎年3月16日~12月15日の土休日に1日2往復、京都バス〈10系統〉が走る。高島市内にはJR湖西線安曇川駅に発着する江若交通のバスが毎日、およそ1時間おきに運行されている。京都駅~出町柳駅~大原間には京都バス〈17系統〉が頻発しているので、三千院や寂光院を散策したのち、滋賀県側に抜けてみるのがよいだろう。

小菅の湯に並んだ西東京バスと富士急山梨バス。両者を乗り継ぐことで、奥多摩駅から大月駅までのバス旅を楽しむことができる(写真:筆者撮影)

首都圏では、東京と山梨の都県境を越える旅が楽しめる。JR青梅線奥多摩駅と山梨県小菅村の小菅の湯の間に、1日4往復運行される西東京バス。山梨県東端の小菅村は多摩地域の生活圏に入っており、青梅線と村を結ぶバスは大切な村民の足である。一方、小菅村とJR中央本線上野原駅の間には、新緑・紅葉シーズンの土休日に2往復、富士急山梨バスが走り、登山者などに利用されてきた。さらに、2014年に開通した松姫トンネルを通り、小菅の湯~猿橋駅~大月駅間の3.5往復(土休日は3往復)が新設された。これにより、奥多摩湖畔を散策したり、小菅の湯に浸かったりしながら、奥多摩駅~大月駅間を年間を通じて毎日、旅することができるようになった。

沿線人口の減少が続く地方のバス路線に、旅人の利用は貴重な運賃収入をもたらす。この春、あなたも路線バスの旅に出かけてみてはいかがだろう。

加藤 佳一 BJエディターズ編集長

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かとう よしかず

1963年東京都生まれ。東京写真専門学校卒業。1986年にバス専門誌『バスジャパン』を創刊。1993年から「BJハンドブックシリーズ」の刊行を続け、バスに関する図書を多数監修。著書に『つばめマークのバスが行く』『そうだったのか、都バス』(ともに交通新聞社新書)、『路線バス 終点の情景』(クラッセ)、『都バスで行く東京散歩』『一日乗車券で出かける東京バス散歩』『ローカル路線バス 終点への旅』(以上、洋泉社新書)などがある。

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