2017年の中国経済は不安材料に溢れている 持ち直しつつある景気は再び崩れるのか

拡大
縮小

第3に2割超の高い伸びを示したインフラ投資のスピード調整が挙げられる。2016年は年初に景気が失速しそうになったため、そのテコ入れのためにインフラ投資を加速した。そのため2016年上期は前年同期比20.9%増と極めて高い伸びを示した。しかし、下期に入るとスピードが鈍化、ニッセイ基礎研究所の推定では同16.5%増へ伸びが鈍化している。

中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)」に伴う交通物流関連の需要が大きい。また、来年の経済政策運営方針を討議する中央経済工作会議でも、積極的な財政政策を継続実施するとしており、インフラ投資の伸びが1桁台まで落ち込むとは考えにくい。ただし、計画が十分に煮詰まらないまま実施すれば無駄な投資も増えかねないため、スピード調整は避けられないだろう。

2017年の人民元はドルに対して弱含み基調

2017年の人民元に関しては米ドルに対して弱含みの展開が続くと予想している。

まず、経済面を見ると、米国では失業率が4.6%と約9年ぶりの水準まで改善するなど緩やかながらも景気拡大が続いている。政策金利もその歩調に合わせて引き上げられていくだろう。一方、中国では、住宅販売、自動車販売、インフラ投資の3つの鈍化で2017年は経済成長に下押し圧力が掛かってくる。他方、第13次5ヵ年計画(2016〜20年)では成長率目標を「6.5%以上」と打ち出しており、その目標を達成するためには緩和状態を維持する必要があって、利上げには慎重にならざるを得ないだろう。ここで利上げすれば住宅バブルが崩壊しかねないからである。従って、米中金利差は2017年も縮小する可能性が高く、人民元は弱含みの展開が続くだろう。

ただし、米国では1月にトランプ大統領が誕生する。現時点ではその経済政策(トランプノミクス)の具体像はまだ見えない。しかし、トランプ氏が次期大統領になることが決まって以降の相場展開を見ると、トランプノミクスに対する期待が先行し、米ドル全面高になった。

即ち、実質成長率の加速を伴うよい物価上昇(金利上昇)なのか、保護主義的な政策が前面に出て実質成長率が低迷したままで起きる悪い物価上昇(金利上昇)なのかも確信できぬままに、いずれにせよ金利は上昇するので米ドルはほかの通貨に対して上昇する、との見立てだと思われる。

従って、新政権誕生後100日とされるハネムーン期間を終えて議会審議が本格化し、トランプノミクスに対する市場評価が固まるプロセスでは、これまで曖昧なままに膨らんでいた期待が剥落して、ドル高は大幅に修正される可能性がある。当面はこれに伴う人民元の急反騰にも注意が必要な局面だ。

三尾 幸吉郎 ニッセイ基礎研究所 上席研究員

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みお こうきちろう / Kokichiro Mio

専門分野は中国経済。1982年慶応大学卒業(専攻:中国政治)、同年日本生命保険入社、1994年米国パナゴラ投資顧問派遣、2000年ニッセイアセットマネジメント株式会社を経て、2009年よりニッセイ基礎研究所。日本証券アナリスト協会検定会員。中国のこれまでの経済発展の歴史を踏まえたうえで、経済構造のトレンド変化や中国の最高指導部が打ち出す構造改革の真意を読み解くとともに、中国に先行して経済発展した日本や韓国などの成功例や、経済発展の途上で「中所得国の罠」に陥ってしまった国々の失敗例を参考にしつつ、中国経済を予測している。

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