「原宿駅解体」が示す日本的観光政策の大問題 観光客が見たいのは最新鋭のビルじゃない

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私の兄弟が京都を訪れたとき、彼がもっとも感動したのは金閣寺でも桂離宮でもなかった。彼が心から感激したのは、新幹線に忘れたはがきを誰かが切手を貼って、送ってくれていたことだ。はたしてフランスの知人に彼からのはがきが届いたのである。こういったたぐいの経験は、外国人観光客にとって一流のホテルに宿泊するのと同じくらい価値があることだ。私の父や兄弟、そして何百万人もの観光客にとって日本の魅力は、地図上にあるどこか特定の場所ではなく、こうした「人々の思いやり」なのである。

私は先日、能楽師居宅観世によるイベントに参加した。彼はそこで能は "大和心" の表現である、と話した。大和心は、おそらく外国人観光客が、日本を訪れた際に経験するものである。この国で真に価値があるものは、はかなく実体のないもの、つまり習慣や伝統、料理のレシピや工芸品だ。日本は、日本人それ自体を表現している。真の日本体験を追求するようになると、外国人観光客は経済的な価値があまりないような、あるいは、日本人にとっては恥ずかしいかもしれないような場所に繰り出していくようになる。

新宿ゴールデン街に外国人が熱狂するワケ

近年有名な新宿ゴールデン街がいい例だ。外国人観光客から人気を集めるまでこの場所は、何年もの間、日本のメディアでは取り壊し計画のニュースばかりが取り上げられていた。この狭い歓楽街には、売春や火事のイメージがしみ付いており、普通の日本人男性が合コンするような場所ではない。だが、映画の宣伝で訪れる多くのフランス人女優や俳優たちが口をそろえて行きたいと言うのは、ほかでもない、ゴールデン街なのである。彼らは皆、私に「どの店にいくべきだろうか」と尋ねてくる。

外国人観光客のおかげで、このみすぼらしいエリアは、今や地球上で最もトレンディな場所のひとつとなった。昨年4月に火災が起こったときは、国際的なニュースにまでなった。なぜかというと、ゴールデン街はそれだけ世界に例を見ないエリアだからだ。それぞれの小さなバーには歴史や雰囲気、お客さんとママが培ってきた関係がある。それは、非常に独特で深いものだ。

世界には、ミッドタウンや六本木ヒルズのような商業施設はある。が、ゴールデン街での一杯は、たとえば東京ミッドタウンのスターバックスで、抹茶ティーラテを注文するときに感じるような、機械的で、どこにでもあるような触れ合いよりも、ずっと上質な体験をさせてくれる。外国人観光客がいなければ、ゴールデン街はすでに消え、住宅街になっていたかもしれないが、今やゴールデン街を取り壊すことはおそらく不可能だろう。むしろ、ゴールデン街はこれまで以上に宣伝され、保護され、支援されるべきである。

ゴールデン街で起きていることは、日本のほかの場所にもあてはまる。つまり、普通の日本人が価値を見いだしていない場所こそが、実に「日本らしい」場所なのである。

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