三枝:でも、つぶれ役というか、縁の下の力持ちの貢献は見ている人は見ているものです。
木本:よくテレビを見た父から「お前はぜんぜんしゃべってないな」と言われます。「親父、裏回しっていうのがあってな」と説明するんですが……。いまはそういう時期だと、すねずに、MCの階段を上っていると思っておきます。
ふりとこなしで全員がハッピーになる
三枝:その意味では萩本欽一さんが一番のお手本になるではないでしょうか? 自分で笑いを取りにいくことがほとんどなくて、萩本さんがふって、こなし側が笑いを取るスタイルです。「ふり側」をできたほうが最終的にMCに近づくのではないでしょうか?
木本:お笑い芸人でいうと「ボケ」と「ツッコミ」よりも、「ふり」と「こなし」なんですよね。
三枝:漫才はボケとツッコミですが、東京の喜劇の構造はふりとこなしだと言われています。僕が萩本さんとお仕事でご一緒した時のことを一つお話ししましょう。まずは台本どおりに完璧になるまで長時間のリハーサルをします。そしてその時は翌日の本番で萩本さん自らが前説(観客が入ったスタジオで、番組の段取りを説明し、会場の雰囲気をよくしておく役目)をして、会場を温めたんです。いい感じになったなあと思ったら、さりげなく本番にうつり、番組を始めてしまうのです。萩本さんは「5秒前」とスタッフが言うのを嫌います。客もその掛け声でピリッとしてしまうからです。僕はその時「ああ、このすごさか……」と思いました。
木本:かっこいいですね。
三枝:これが萩本マジックかと。「良い子悪い子普通の子」のような形のステージでも時たま、まったく台本と違うことを仕掛ける。「これってどっちなの、リハと違うんですが」という時に、こなし側にすき間が生まれます。そこに萩本さんが「ふり」続けると、相手も「こなす」ので、本来やりたいこととずれてきて新しい笑いが生まれるんです。こなしの人が、さもすごい面白いことをやっているかのようにウケていく。「ものすごいな」思いました。真剣勝負を見た気がしました。プロの仕事とはこれかと。
木本:みんなが得をするスキルですね。誰も損しない。
三枝:萩本さんは人を落としめるような笑いを絶対にしませんので、みんなが面白がって帰っていくんでしょうね。
木本:事務所の大先輩である鶴瓶師匠には、僕もいろいろ勉強させてもらっていますが、師匠は人を落とさないですよね。仕事のステージが上っていく人を蹴落とすような笑いはしないものなんですね。
三枝:いいMCは「上手にふりとこなし」ができる人が多いです。
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