フィリピン政府の「無慈悲殺人」を知る10枚 麻薬撲滅の名のもとに超法規的な殺人が横行

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私のマニラの夜は、警察署内で午後9時に始まる。そこで地元の記者たちと共に新たな殺人の一報を待つのだ。知らせが入ると、まるで線路上の電車のように車列をつくり、ハザードランプを点滅させて赤信号を突っ切る。

この夜間の取材で私は毎日、日誌をつけ、音声も記録した。取材はフィリピン人で30年のベテラン記者リカ・コンセプシオンに協力してもらった。

警察のおとり捜査にも幾度となく同行した。誰かが殺害されたとか遺体が発見されたと聞いて自分たちだけで現場に向かったこともある。そうした現場で出会った犠牲者の親戚や近隣住民たちの話は、警察の発表とはまったく異なることが頻繁にあった。

警察は、容疑者が逮捕時に抵抗したために殺害したケースを「ナンラバン」と呼ぶ。「最後まで戦った」という意味だ。フロールジョン・クルス(34)のケースもそう呼ばれた。

ある晩の11時前、カローカンという貧困地域にある彼の自宅を訪れると、彼の遺体は葬儀業者によってすでに運び出されていた。

家族が自宅で殺害されたクルスの血をふき取っているとき、「彼のような麻薬の密売人、中毒者にはなるな」と書かれた段ボール紙を見つけたと、クルスの姪は言う。

警察は、「クルス容疑者は家の中に逃げ込んで拳銃を発砲し、警察官に弾が命中した。容疑者の違法な攻撃を防ぎ、撃退するために銃で応酬した」と発表した。

超法規的な殺人が横行

だが、クルスの妻リタが悲痛な涙を流しながら私に語ってくれたところによると、武装した男たちが家の中に押し入り、クルスを銃で殺害したとき、彼は71歳になる母のためにリビングルームでトランジスタラジオを修理していたのだという。

クルスは麻薬密売人ではなく、「シャブ(メタンフェタミン)」を使用していただけだと家族は言う。クルスは数カ月前、ドゥテルテの求めに応じて薬物治療プログラムを受けると自ら警察に出頭していた。

日がたつにつれ、麻薬撲滅運動の名の下で実行される殺人はますますあからさまになっていった。警察官は超法規的な殺人への関与を隠そうともしないようだった。「ナンラバン」はブラックジョークになった。

トンド地区の警察本部長レデントール・ウルサノは、「フィリピンでは新しい死に方ができた」と言い、笑いながら体の前で手首を合わせ、手錠をはめられた仕草をしてみせた。

クルスの甥のエリアム(16)と、姪のプリンセス(18)は、おじを殺害した私服警官がおじの家から外に出るところを2階のベランダから見ていたという。

次ページ彼らは笑いながら…
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