イタリア国民投票「否決」は何をもたらすのか ポピュリスト政権やユーロ離脱につながるか

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否決ショックが限定的だったとしても、2017年中にも実施される総選挙を乗り切るまでは、気を抜くことはできない。

次期総選挙の台風の目となる五つ星運動は、ユーロ離脱の国民投票や政府債務の再編に言及したことがある。こうした公約を掲げて、高い人気を保ったまま、総選挙が視野に入ってくれば、「経済的繁栄から取り残された人々の現状への不満の表れ」という様相が強まる。ヨーロッパ発で世界を巻き込むような危機を意識せざるを得なくなる。

仮に、ユーロ離脱や債務再編を公約に掲げないとしても、経験不足の五つ星運動が単独で政権を担うことによる混乱は避けられない。今年6月の地方市長選で五つ星運動はローマとトリノで勝利した。ビルジニア・ラッジ氏は初の女性ローマ市長としても話題を集めたが、人事を巡る摩擦などで市政に混乱が生じ、全国レベルでの五つ星運動の支持率は6月時点よりもやや低下している。経験不足を補うために経験者を登用する、あるいは既存政党と連立を組めば、汚職や腐敗を攻撃してきた五つ星運動の清新なイメージが損なわれる悩ましさがある。

ユーロ圏離脱を国民投票にかけることの危険性

五つ星運動が政権を掌握して、ユーロ圏離脱の是非を問う国民投票を実施する可能性についても考えておこう。まず、イタリアの憲法は、国際条約を国民投票にかけることを禁じているので、憲法改正が必要だ。また、EU離脱と異なり、ユーロ圏からの離脱は条約上の規定がないので、「秩序立ったユーロ離脱」という道筋は現時点では存在しない。おそらくイタリアの銀行からの預金流出は加速、格下げも免れないだろう。2015年7月のギリシャの国民投票の時のように、ECBがイタリアの銀行への資金供給に制限をかけ、イタリアが資本規制を導入せざるを得なくなれば、国民生活に大きな打撃が及ぶ。

先進国の政治が、経済的繁栄から取り残された人々の声に耳を傾ける必要性は増している。イタリアが、現在のユーロの枠組みの中で、最も苦しんでいる国の1つであることも確かだ。

しかし、ユーロ離脱を、明確な道筋も描かず、EUとの調整もないままに国民投票で問いかけるのは、世界の金融市場を混乱させるおそれがあり、危険過ぎる試みだ。

伊藤 さゆり ニッセイ基礎研究所 主席研究員

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いとう さゆり / Sayuri Ito

早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)を経て、ニッセイ基礎研究所入社、2012年7月上席研究員、2017年7月から現職。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大学大学院商学研究科非常勤講師兼務。著書に『EU分裂と世界経済危機 イギリス離脱は何をもたらすか』(NHK出版新書)、『EUは危機を超えられるか 統合と分裂の相克』(共著、NTT出版)。アジア経済を出発点に、国際金融、欧州経済を分析してきた経験を基に、世界と日本の関係について考えている。趣味はマラソン。

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