欧州に渡った難民の知られざる過酷な生活 戦火を逃れても厳しい生活が続く

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やはり言葉は最大の問題だ。13歳の時から仕立て職人として働いてきたオマルには十分なキャリアがある。だが雇用側から見れば、オランダ語や英語が流暢に話せない彼は採用しにくい相手だ。

シリアをはじめとする教育制度の異なる国々で取得した学位や資格が欧州の企業では認められず、不利な立場に立たされるケースも少なくない。採用に必要な技能や厳しい訓練を受けた経験がないまま、欧州に来た人もいる。

リフジー・カンパニーのフルー・バッカー常務理事がこの団体を立ち上げたのは、すぐに仕事が見つかれば同化も早く進むだろうという考えからだった。書類手続きに追われたり、きちんとした職が見つかるまでに何カ月もかかるよりずっといいというわけだ。

孤立や自殺願望抱く移民も

オランダは昨年、4万7600人の亡命希望者を受け入れた。半年間は就労が認められず、やることもないまま収容施設で時を過ごすなかで、孤立したり自殺願望をもつ人も少なくないとバッカーは言う。

バッカーは40社ほどのオランダ企業から、難民の指導にあたるとともに有期契約で雇うという合意を取り付けた。うまく行けば、こうした仕事が難民たちの能力に合った正規雇用につながるかも知れない。またバッカーはアムステルダム市と協力し、難民が到着して間を置かずに就労経験を積めることを目指した活動も行っている。

運良く就職がかなえば、同化のスピードも速くなる。シリア人歯科医のムアズ・スワイド(27)はこの春、リフジー・カンパニーを通じて、オランダ人スタッフがなかなか集まらないで困っていた歯科医院で働き口を見つけた。内戦のさなかの国を出たのは2014年で、1年にわたってあちこちの収容施設でつらい生活を余儀なくされた。400人の難民たちと1つの大型テントで暮らしたこともある。

「ああした状況では、未来について考えることなど無理だ」とスワイドは言う。「新たなスタートを切るだけでも大変なのに、収容施設では生き続けることしか考えられない」

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