自国への怒りが、諦めに変わる韓国の閉塞感 格差社会、「何をしてもムダ」と嘆く国民

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この事件を連日、報道している現地メディアの記者も、怒りを通り越して開いた口がふさがらないというのが、正直なところのようだ。「もう、あきれるとしかいいようのないことが次々と明るみに出て、大人だって嫌気がさしている。3回目の談話も、退陣すると意思表示したにしても、その手法は狡猾だ。自身の責任を転嫁して、進退は国会に任せるなんてあり得ないでしょう」

こう吐露した記者はさらに続けた。「それに、崔容疑者をはじめ起訴された大統領の側近たちはほんの数年、刑務所に入るだけで、その後はどこかに隠匿している財産で海外に逃げるのでは。そうすれば、現地の韓国人社会にはおおっぴらに出られないにしても、さほど困ることなく生きていける。そんな想像をするだけでやるせない…。国民の怒りが収まった後、じわりじわりとやってくる副作用を国はどうするのか。次の世代のためにも、この混乱を乗り切らなければいけない」

この後、韓国社会は立ち直れるのか

3回目の談話は、野党3党が予定していた弾劾が決議される可能性が高いとして、朴大統領派の重鎮たちが大統領に「名誉ある退陣」を促した後だった。その時は、朴大統領は即座に「ただ退陣することはできない」と突っぱねたといわれる。

29日の朴大統領の談話後、野党は「任期短縮と弾劾は別問題」として与党との交渉はしないと発表したが、12月2日の弾劾発議とその決議をめぐる情勢は、かなり微妙だ。

野党はこれまで決議に必要な国会の3分の2の議席を満たす28議席以上の40人ほどを与党に属しながらも朴大統領にくみしない「非朴系」から確保したといわれていた。だが、「弾劾に賛成していた『非朴系』の動揺も伝えられている。決議ができなければ発議する意味がないので、野党は確保できる議員数をにらみながら動かなければならない。『非朴系』は野党はもちろん、与党内で親朴と内輪と話し合いを持った後、代案が出なければ9日にも弾劾発議とその決議に参加するとしているが、政局の動きが速すぎる。どうなるかが読めない」(同前)と先行きの不透明感は増している。

ただ、「弾劾にしても秩序ある退陣にしても‥大選(大統領選挙)、来年上半期に行う」(朝鮮日報11月30日付)といわれ、「4月に退陣、6月に大統領選挙」の見方が大勢だ。

朴大統領の進退はいずれ定まるにしても、韓国の人々に深刻な社会不信という形で残された「スンシル症」の"傷"がどれだけ深く、そしてその痛みはいつになったら消えるのか――。かつて、「国と結婚した」とまで言い切った朴大統領は今、こんな国民の姿をどんな思いで見ているのだろう。

やりどころのないまま憤懣だけが膨れあがっていく。そんな状況だが、韓国紙の別の記者は「『スンシル症』にかかっている人たちが希望を見出せるよう、まずは今まで続いてきた悪しき慣行を取り払い、新しい仕組みを作っていかなければならない。社会が混乱してとても大きな痛手を負ったのは確か。でもそれだけに、ある意味では新しく生まれ変われるチャンスになるとも思っている」。そう言って、「雨降って地固まる」未来に希望をつなげていた。

今回の事態は、猛スピードで「圧縮成長」を続けてきた韓国の歪みをさらけ出したものだと言え、新しいシステムに移行するために起こるべくして起きた必然的なものだったのかもしれない。

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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