定年後に退職金を株につぎ込むのは大バカ者 60歳から少しでもおカネを増やす正しい方法

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もちろん、株式投資は高いリターンが期待できる。ただ、相応のリスクがついて回る。特に短期のトレーディングになると、これはもうゼロサムの世界であり、投資というよりも投機の世界になる。

時間があるからといって、軽い気持ちで手を出すな

しかも、株価は日々、時々刻々と変動している。株式投資の未経験者が、自分の大事な資金を株式市場に投じると、どうなるか。今の株価の値動きが気になって仕方がなくなる。結果的に、目先の株価に踊らされてしまい、損を積み重ねることになる。気づいたら、退職金の半分以上が溶けて無くなっていた、などということにもなりかねない。

確かに、株式投資で成功を収めている個人もいる。だが、「東洋経済オンライン」にも時々、登場しているような、株式投資やFX(外国為替証拠金取引)で億単位の資産を築いた個人は本当にごく一部だし、そこまでの資産を築くまでには、幾度となく大きな損失を被っている人も多い。

株式投資やFXで成功するためには、何度となく手痛い失敗を繰り返し、その中で自分なりの経験値を高めていく必要がある。リーマンショック級の、とんでもない暴落を経験することもあるだろうし、逆にバブルのような大相場を経験することもあるだろう。こうしたマーケットの波のなかで、幾度となく儲かったり、損したりを繰り返すことで、相場観が磨かれていく。こうした経験を積むためには、やはり10年単位の時間が必要だ。1カ月や2カ月で身に付くものではないのである。

このように考えると、定年退職して時間があるからといって、軽い気持ちで株式投資に手を出すことが、いかに愚かな行為であるか、お分かりいただけると思う。

もちろん、これからは人生90年時代なので、60歳から投資をスタートさせたとしても、30年間という時間があるのは事実だ。しかし、自分が70歳、80歳になった時、保有資産の半分を失うような損失に耐えられるかと問われたら、それはやはり無理だろう。だから、60歳からの投資は十分にコントロールされたリスクの範囲内で行うべきなのだ。

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そのためには、よく分散されたポートフォリオを持つことだ。60歳からの投資は、これに尽きる。また分散といっても、日本株を個別に10銘柄、あるいは20銘柄に分散させるという意味ではない。世界中の株式、債券にバランス良く分散させるという意味だ。それを実現できる金融商品は、投資信託以外にあり得ない。

老後の生活資金を殖やすために、退職金を運用するのであれば、世界中のさまざまな資産に分散されたポートフォリオを持つ投資信託を購入する。また購入する際も、一度にまとまった資金で買うのではなく、仮に1000万円を運用するのであれば、毎月100万円ずつ10回に分けて買いつけていく。投資対象だけでなく、買うタイミングも分散させるのだ。

これが60歳から始める資産運用の正しいやり方であり、それ以外の方法はすべて邪道と考えてもらって良いだろう。

中野 晴啓 なかのアセットマネジメント社長

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なかの はるひろ / Haruhiro Nakano

1987年 クレディセゾン入社。2006年社内ベンチャーとしてセゾン投信設立。2007年4月代表取締役社長、2020年6月代表取締役会長CEOに就任し、 2023年6月に退任。9月1日、なかのアセットマネジメント設立。趣味は歌舞伎鑑賞や鉄道など。

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