「フリーゲージ」開業が間に合わない根本原因 そもそも開発スケジュールに無理はないか

拡大
縮小

九州新幹線長崎ルートについては今年3月、2022年度の開業時には在来線特急と新幹線を乗り継ぐ方式とすることで、国交省やJR九州、佐賀県、長崎県などが合意。FGTの量産車による全面開業は2025年度以降の見通しとなっている。

だが、そもそも実用化に向けたスケジュールに無理はなかったのだろうか。60万キロメートルを走行する耐久走行試験には、当初から約2年半かかると見込まれていた。2014年10月に開始し、順調に進んだ場合でも終了は2017年上半期だ。

2014年春、現在の試験車両が公開された際の会見で、国交省の担当者は営業用車両の設計・製造について「通常、新幹線は5年半くらいかかっているので、6年くらいをみて開業に間に合わせたい」と述べていた。2017年上半期の試験終了から6年を要するとなれば完成は2023年となり、2022年度の九州新幹線長崎ルート開業にはギリギリか、あるいは間に合わなかった可能性もあり得る。

つまり、九州新幹線長崎ルートはFGTを前提として進められてきた計画であったにも関わらず、肝心のFGTの開発は開業に間に合うかどうかという相当に厳しいスケジュールで進められていたといえる。

開業日程ありきの開発ではなかったか

FGTはこれまでに3代の車両が製造され試験走行を行ってきたが、現在の車両は外観も新幹線車両に近く、実用化に向けた確認の意味合いが強かったはずだ。だが、いま検証されているのは車軸の磨耗対策といった、FGTの根本的な技術に関する部分だ。

2014年2月に開かれた技術評価委員会では、先代の試験車による在来線での約7万キロメートル耐久走行試験、約1万回の軌間変換耐久試験、さらに試験台による台車の高速走行性能試験を行った結果「軌間可変台車の基本的な耐久性能の確保にめどがついたと考えられる」との評価が行われている。

この際に行われた台車の高速走行性能試験は、資料によると「部品の磨耗等を模擬した状態で」時速270キロメートルでの走行を試験台で行うという内容だった。だが、今回の検証でも試験台での回転試験は行われており、実際の走行時を想定して荷重をかけた試験では磨耗が起きている。

以前の試験でも今回のように実際の走行を想定した試験を行っていれば、磨耗が発生していた可能性もあるのではないか。新幹線の開業スケジュールありきで根本的な部分を見過ごしたまま開発が進められた可能制はないのだろうか。

新たな技術の開発には未知の問題が付きものだが、一度は「基本的な耐久性能の確保にめどがついた」と評価された技術・台車に不具合が発生し、開発を長く停滞させていることは事実だ。技術的な検証はもちろんだが、開発の過程についても検証すべき課題はありそうだ。迷走するFGTの進路は見通せない。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT