しかし、いま米国の民衆が求めているのは、健全性よりも成長だ。2009年には行き過ぎたリスクテイクを糾弾された金融機関だったが、資本の積み上げで健全化が進んだ。これに伴い、金融機関の健全性は、一般国民にとってそれほどの関心事ではなくなっている。むしろ、既定路線を歩むお行儀のよさよりも、多少やんちゃでも、リスクをとって成長を後押しするという役割が金融機関に求められつつある。大統領選の結果もそのような民意を反映したものといえるだろう。
このように、トランプ氏の金融規制緩和の動きは、タイミングとしても合理的だ。このため、筆者は今後、米国でヘッジファンドやプライベート・エクイティ投資、合併規制などについて、見直しがあり得ると予想している。ただ、これはあくまで米国内の動きだ。三菱UFJフィナンシャルグループのように米国の業務が大きい場合を除き、邦銀へのメリットは大きくない。
邦銀にとっても救世主になりうるか?
株式市場関係者は、トランプ政権は国際規制に対しても猛威をふるってくれないだろうかと期待するのではないか。しかし、そちらのハードルは高そうだ。金融危機後の国際規制の強化は、既に8合目まで来ている。総仕上げとして、年末には資本比率計算方法の大幅改定が決まる予定だ。
もっとも、来年以降議論される予定の"大物"も残っている。現在、リスクゼロとされている国債に対する規制の厳格化である。現実となったら金融機関には死活問題であるし、国債を保有しにくくなれば各国の財政運営にも悪影響をもたらしかねない。
これらにトランプ新政権が強く異を唱えれば、方向性が修正される余地も残っているだろう。あるいは、バーゼルⅡの場合のように、決定した国際規制について米国内での実施を先送りにする可能性もある。国際規制を決めるBIS(国際決済銀行)のルールには、厳格な罰則規定はないため、日本もひょっとしたら米国の流れに便乗することができるかもしれない。
「私は物事を大きく考えるのが好きだ」と、トランプ氏は前述の自叙伝で語っている。金融規制緩和に手を付けるなら、"大きく"考えて、米国内だけでなく、国際規制にも手を広げてくれないだろうか――。トランプ新政権に対する金融業界や市場関係者の熱い視線は続きそうだ。
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