日産はなぜ「ららぽーと」でクルマを売るのか ロードサイドの大型店で売る時代は終わった

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かねてから日産は、顧客との接点が少なくなっていることに強い危機感を抱いていた。同社の調査では、顧客が新車を購入するまでにディーラーを訪問する回数が平均でわずか2.6回。事前に自動車雑誌やネットで情報を収集する人が多く、販売店をいくつも回るケースは少なくなっている。

顧客との接点は自動車業界で共通する悩みだ。そんな中、消費者に近い自動車販売をいち早く具現化したのがトヨタ自動車の販売店だった。

2007年に開業した商業施設「トレッサ横浜」には、「オートモール」という自動車販売店専用のエリアがある。トヨタ系とダイハツ工業のディーラー6社が出店し、それぞれ展示場と整備工場を持つ。展示場と同じフロアにはカフェや書店、アウトドア用品店もあり、買い物の途中で車を気軽に見ることができる。

買い物ついでに車の”衝動買い”も

トレッサ横浜では車の展示場とカフェ、アパレル店などが同居する(記者撮影)

トレッサ横浜の来場者は年間1400万人で、そのうち車の購入・検討が目的なのは1割。裏を返せば9割の人は車でないものが目当てなのだ。それでも「大根を買いに来たついでに、車の契約をしてしまうような究極の衝動買いもある」と、トレッサ横浜を運営するトヨタオートモールクリエイトの栗原郁男常務は話す。3世代で訪れた家族が車を気に入り、祖父母が車の頭金を出して契約するケースも珍しくないという。

新たな顧客の開拓にも一役買っている。栗原氏によれば、一般的なトヨタの販売店では7~8割がトヨタ車の保有者だが、トレッサ横浜ではその比率が5割まで下がる。つまり他社製の保有者が流れ込みやすくなっているのだ。「トヨタの路面店に行きにくいと思う日産やホンダのユーザーでも、ここでは気軽に見られる」(栗原氏)。

オートモールでは車の買い替え需要の喚起も狙う。栗原氏は「車の保有年数は年々長くなっている。買い替えを促すには、新車に触れる機会を作るしかない」と意気込む。

新車を10年以上保有する人は、今や自動車ユーザーのうち4分の1を占めるまでになった。車の耐久性や性能が上がったともいえるが、自動車メーカーが道路沿いの店舗で「待ち」の販売方法から脱却せず、商品の魅力を十分に伝えきれていなかった面も大きいだろう。

こうしたトヨタの例を参考にしたという日産の星野専務も「たとえばトヨタのユーザーが、あえて違うメーカーの車を買おうとするような行動は昔ほど見られない」と分析。他社の顧客を取り込む意味でも、ららぽーとに出店したような敷居の低いテナント型が効果的と見る。

ただ、ららぽーとの店舗では整備ができなかったり、置ける車の台数が少なく試乗に不便だったりと「街角ギャラリー」の域を出てはいない。どのような効果が出てくるかは未知数だ。星野専務も「色々な売り方を試す実験店舗だ。まずここで成功のパターンを見つける」と話す。自動車の販売に新風を吹き込めるか、日産の取り組みに注目が集まる。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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