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費用も工期もかかる高層マンションの修繕工法は慎重に選びたい(エスアールジータカミヤ提供)

工事に先立って行う建物診断もムダになることがある。

建物診断では、外壁の痛みや鉄部のさびなどを目視検査したり、ハンマーでコンクリートを打って返ってくる音で強度を測ったり、あるいはコンクリートに薬液を吹き付けて中性化(47㌻図参照)を確かめたりする。ただし、このために作業足場を組むことはしないので、管理人の巡回経路プラスアルファの範囲内しか診断できない。足場を組んで上に昇ってはじめて大きな亀裂を見つけてびっくり、というケースは十分想定される。もちろん、建物診断のおかげで重大な劣化を発見できる場合もあるだろう。ちなみに、診断費用の相場は1戸1万円程度だ。

「そもそも、建てられた年代によって建物の弱点は違います。当然、修繕方法も変わってくる」。建物診断設計事業協同組合の山口実理事長はこう指摘する。

塗装壁からタイル壁に移行したのが80年以降だ。90年前後は、給排水管が金属製から塩ビ製へがらりと変わる転換点となった。これ以降のマンションでは、給排水管の修繕間隔はずいぶん短くなっているはずだという。

どの工事業者に頼むかも重要

工事内容の決定と同じくらい重要なのが、どの工事業者に頼むかだ。

以前は、日常の管理を委託している管理会社に、大規模修繕工事も依頼するのが常識だった。ただ、管理会社はそのマンションの修繕積立金の額も何もかも把握しているため、「足元を見られるおそれがある」と敬遠される方向にある。代わって、設計監理方式と責任施行方式の2つが新たな主流となりつつある。

設計監理方式とは、工事は施工会社に、監理は設計事務所に分けて任せる方法だ。「監」の字を使うのは、工事の内容を監督する意味だ。一方の責任施工方式は、工事業者に監理も任せるやり方。最近では「チェック機能が働く」と、設計監理方式が人気だ。建物診断から始まり、工事の仕様決定、施工会社選定の補助、工事が始まってからは週1~2回の現場巡回や施工内容のチェックを委託し、監理料は総工事費のおよそ7~10%というのが相場だ。

ただ、「設計事務所は必ず住民を守ってくれるというのは錯覚」と、ある修繕コンサルタントは指摘する。設計士が談合の音頭をとったり、施工会社からリベートをもらっていたりする例もあると言う。大学の建築学部にマンション維持管理・修繕の専門学科はない。建築と修繕とはまったく異なる仕事だという指摘もある。「どの方式が優れているということはなく、信頼できるパートナーを選ぶことが欠かせない」(コンサルタント)。

※大規模修繕のカラクリをはじめ、建て替えの高いハードル、管理組合の実態、タワーマンションの悲哀などマンションにまつわる、さまざまな問題を詳しく知りたい方は、週刊東洋経済2013年6月18日号「マンション時限爆弾」をぜひお読みください。

高橋 由里 東洋経済 記者

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たかはし ゆり / Yuri Takahashi

早稲田大学政治経済学部卒業後、東洋経済新報社に入社。自動車、航空、医薬品業界などを担当しながら、主に『週刊東洋経済』編集部でさまざまなテーマの特集を作ってきた。2014年~2016年まで『週刊東洋経済』編集長。現在は出版局で書籍の編集を行っている。

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