トランプ支持者はやはり「嘆かわしい集団」だ ヒラリーの批判はあながち的外れではない

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もちろんナチスが政治的に宣伝した人種差別と、トランプ支持者の姿勢を同列に論じることはできない。

今、トランプ支持者はウォール街のバンカーや主要メディアなど、エリート層に対して似たような敵意を示しているが、彼らの敵意はメキシコや中東からの移民、難民にも向けられている。米国の社会的序列の中では、移民や難民が正当な位置にいる米国の白人から富を奪う物乞いとなっているというのだ。

第2次大戦前のドイツでは、国家の偉大さを取り戻すには、社会に安住している特定のエリート層を一掃する大改革が必要だと唱えられた。それがナチスの迫害につながり、エリートや庶民を問わず、多くの階層がその主張を鵜呑みにした。

だが、グローバル化が進み文化も多様化している現在の世界で、あまり恵まれない人々が、もっと恵まれない人々に対して怒りを抱いているのかは疑問だ。

米国社会の変質がトランプ氏を支えている

今、米国で社会の特定層に敵意を向けているのは下層の白人だけだ。教育水準の高い有権者のほか、移民や人種的マイノリティも、彼らを標的にしたポビュリストに与したいとは考えず、クリントン氏に投票するだろう。

かくしてトランプ氏は社会から置き去りにされたと不満を抱く教育水準の低い白人に頼るしかなくなっている。大統領候補としてこのような人物が支持を得るのは、米国社会であまりに多くの人が不利益な立場に置かれているからだろう。

かつては教育水準が低くても、まともな生活を送れるだけの職業に就くことができた。だが、現在のポスト工業化社会ではそうした職業は消滅し、あまりに多くの人々が、もはや失うものは何もないと感じている。とりわけ米国では、そうなってしまっているのだ。

 (週刊東洋経済10月29日号

イアン・ブルマ 米バード大学教授、ジャーナリスト

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Ian Buruma

1951年オランダ生まれ。1970~1975年にライデン大学で中国文学を、1975~1977年に日本大学芸術学部で日本映画を学ぶ。2003年より米バード大学教授。著書は『反西洋思想』(新潮新書)、『近代日本の誕生』(クロノス選書)など多数。

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