鳥取「弱小鉄道」を救ったIT出身社長の手腕 若桜鉄道再生の裏にあるマーケティングとは

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強みは弱みをカバーすることができます。「買った荷物を運ぶのが面倒」という弱みは、デパートの配送システムを生かし、5000円以上の購入で配送無料サービスとしました。

車内販売の様子

それから、弱みを逆手に取る方法もあります。若桜鉄道には人手もおカネもありませんが、駅のホームで発表会や除幕式を行うなど、列車イベントとしてメディアにアピールする広報なら可能です。その代わり、デパートには景品や部材を提供していただきます。

お酒(ビール)が飲める。おしゃべりを楽しめる。コンシェルジュの案内で特別扱いしてもらえる。お得な買い物ができる――こうして見てきますと、お買い物列車の勝負どころは「列車に乗り合わせてみんなで買い物に行く"楽しさ"で勝負する」ことであることが分かります。

通学に使う高校生を増やすために何をしたのか

『希望のレール 若桜鉄道の「地域活性化装置」への挑戦』(祥伝社)。画像をクリックするとアマゾンのホームページへジャンプします

もう一つSWOTの例を挙げてみましょう。若桜鉄道の収益を左右するのは高校生です。しかしながら、若桜鉄道が過疎化の進む地域で高校生の減少を止めることは不可能です。さらに、鳥取市内に通勤する保護者が自家用車で学校に送迎する例も増えており、これもコスト面で対抗しづらいところです。

一見、打ち手がなさそうですが、列車通学のSWOTを分析すると、お買い物列車に似た施策が見えてきます。列車通学では、家でも学校でもない公共の場が体験できること、友人との交流が深まること、交通事故のリスクが減ること、通学生の収益で公共交通が支えられ、車を運転できないお年寄りや障がいのある方の足が確保されるという社会的な意義があること――などを学校説明会の機会などでご紹介し、利用をお願いすることとしました。

③ ビジネスプラン

いつまでに、何を、どうするのか。勝てる計画を考えます。経営資源を使い、戦術を実行します。

経営資源とは、人と組織、おカネ、モノ、顧客とパートナーです。この経営資源を使い、決められた期限内に、数値化された目標を達成するのが、ビジネスプランと呼ぶべきものです。しかもビジネスプランは、最小の労力、最大の効率、最小のリスクに向けて計画しなければなりません。

プランは実行しさえすればよいのでなく、必ず成果を生むように考えないと意味がありません。たとえば列車通学のメリットを啓発するには、ポスターを貼るだけで済ますようなことをせず、学校説明会などの機会に時間をいただき、生徒と保護者の両方に直接お話をして反応をうかがうようにします。チラシを配る際には、受け取った生徒が読んでいるかをチラ見で確認するなど、伝えたいことが確実に相手に届いているか、心に響いているかを確認するようにし、やり方を改善していきます。また、高校の行事には極力協力し、学校や高校生の課題についても把握に努めています。

お客様が欲しいものはお客様しか知りません。だから、お客様に会いに行くことはとても大切なことなのです。

山田 和昭 若桜鉄道社長

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やまだ かずあき / Kazuaki Yamada

1963年東京生まれ。早稲田大学理工学部工業経営学科卒。1987年からIT業界でシステム開発営業やプロダクトマーケティングなどにかかわる。2014年9月に若桜鉄道の公募社長に就任。

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